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六章

五月下旬某日(平日)

この日は、いつもと変わらず、学校の放課後に瑠璃の家に来て、一緒にゲームをしていた。

「ーーー(カチャカチャカチャ・・・)」

「ーーー(カチャカチャカチャ・・・)」

画面上では2人の格闘家キャラが戦闘を繰り広げている。

2人のキャラの操作は、僕と瑠璃だ。

瑠璃が操るキャラが隙を許さない熾烈な攻撃を続けてくる一方、僕は、それにやられないようにガードを固める。

瑠璃が攻撃の手を緩める。このタイミングで僕は攻撃に移る。が、

「あ、やべ」

僕が操作ミスをして隙の大きい技を出してしまう。

瑠璃は攻撃を防ぎきり、ガードが甘くなった僕のキャラにコンボを叩き込んで残り僅かだった僕のキャラのHPを削り切る。

『KO』

ゲームのシステムボイスによって、瑠璃の勝利が告げられる。

「相変わらず、強いなぁ。」

「まだまだだね。」

「もう一戦良いか?」

「もちろん。」

その返事を聞いて僕は、再戦ボタンを押す。

『fight』

ゲームのシステム音が鳴り、再度体力がフルの状態から試合が開始する。

瑠璃の攻撃は先程同様、隙がない。さすが、オンラインランク戦でマスターを取っているだけある。

僕も負けじと食らいつくが、ジリジリと僕のキャラのHPは削られていってしまう。

試合中は終始無言で、会話が無い。

そんな中、ふと、瑠璃が話しかけてくる。

「ねえ、真言。」

「・・・うん?」

余裕がないながらも、僕は何とか相槌を打つ。

「私、留学しようと思うんだ。」

「ふーん・・・」

頭のリソースに余裕が無く、適当な相槌を打つ。

しかし、数秒遅れで、先程の言葉を理解する。

「・・・え?」

先程の言葉を理解して、瑠璃の顔を見る。

「ガード、甘いよ。」

そんな僕にお構い無しでコンボを決めて僕のHPを瑠璃の操作キャラが削りきってしまう。

『KO』

先程同様、瑠璃の勝利を告げるシステムボイスが流れる。

そんなことは気にならず、僕は瑠璃に問いかける。

「留学、するのか?」

「うん、しよっかなぁって。」

「何で?」

「うーん、由奈の話を聞いて、してみてもいいかなって思って。」

「そうか・・・」

「・・・もっと、何か聞いてこないの?もっと色々聞いてくるかと思ったんだけど。」

「え?あぁ、いや、僕は瑠璃がしたい様にすべきだと思うって、この間も言ったから、それ以上に何か言うようなことは無いよ。でもまあ、始めはその気が無いみたいなこと言っていたのに、行こうと心変わりした理由は聞きたいかな。」

「心変わりしたのは・・・、まあ、由奈の言ってる通り、そこでしか体験できないことがあるんじゃないか、みたいな。」

「そうか・・・」

自分から質問してくるように仕向けたくせに、その返答は煮えきらない。

何かを隠しているのだということはわかる。だが何を隠しているのかまでは、僕にはわからない。

ましてや、その隠している部分を突っ込んで聞くことなど、僕にはできようがない。それをして教えてもらえるほど、心を開いてくれているとも思っていない。

「親にはもう話したのか?」

「いや、まだだよ。一応、まだ期日までは時間があるから、決意が固まって絶対に曲げないって言い切れるようになってから言うつもり。」

「ふーん、そっか・・・。」

それ以上、何を言えば良いか思いつかず、無言になってしまう。

気になるところはあるけれど それをうまく言葉にすることができない。

これ以上、この話の続きをする気にもならず、ゲームを再開しようとする。

「続きやるか?」

「うん。」

瑠璃の返答を聞いて、再戦ボタンを押す。

また、再戦が行われる。

今日はそんな調子で、言いたいことも言えない感じのまま、二人でゲームを続けた。



翌日


委員会の仕事があり、下校時刻が遅くなってしまった。

学校内に人通りは少なく、校門に向かって歩いていると、後ろから声をかけられる。

「あれ、真言じゃん。こんな時間に何してるんだ?」

振り返って後ろを見ると、賢人がいた。運動服ではなく、制服を着ている。部活終わりだろうか?

「委員会の仕事があって、ついさっきまでそれをやってたんだよ。賢人は、部活終わりか?」

「そうだよ。今日も今日とて、真面目に部活をやってましたよ。近々、練習試合もあるからな。今日はもう、帰りだけど、急ぎじゃないなら、一緒に帰らないか?」

「ああ、別にいいけど。」

別の返事を聞くと、賢人が僕の横に追いつき、二人並んで、学校を出る。

歩きながら僕は賢人に話しかける。

「毎日毎日、よくサッカーしてられるな。あれか?ボールは友達ってやつ?」

「例えが古いな・・・。別に、ボールと友達になりたいとも思わないし。」

「サッカーやってるのに?」

「サッカーやってるのに。」

「そっか、結構ドライな関係なんだな・・・。」

「そんな意味深な仲でもないわ。」

「部活では、スカイラブハリケーンの練習とかするのか?」

「するわけないだろ!危険だわ!リアルでやるわけないだろ、あんなの!」

「そうなんだ。てか、よく話し通じたな。」

「まあ、聞いたことあるぐらいの話でしかないけどな・・・。てか、それを言い出したら、真言のネタが古すぎるけど。」

「安心しろ。僕はネットミームだけなら詳しい方だ。多分!」

「それは、遠回しに原作見てないアピールか?アピールをする意味はわからんが。」

「因みに、賢人は見たことあるのか?」

「いや、無い。」

「なんだ、僕と大して変わらねえじゃん。」

そんな調子で雑談を続けていると、賢人が思い出したように、話題を振ってくる。

「あ、そういえば、この間、由奈とデートしたんだって?」

「デート?出かけるぐらいはしたけど、デートとまではいかないんじゃないか?」

「いや、年頃の男女が休日出かけるっていうならデートだろ。」

「別に、そんなんじゃないと思うけどなぁ・・・」

「まあ、デートかそうじゃないかについては、究極、どうでも良いんだけど、由奈とはどこに行ってきたんだ?」

「映画館で映画見て、そのあとに由奈が買い物行きたいって言ったから、買い物に付き合っただけだよ。」

「いや、マジでデートじゃん!いいねぇ、青春してるねぇ。羨ましいなぁ。」

「青春ならお前だって、部活のサッカーをやってるんじゃないのか?」

「サッカーは、練習ばっかりだから、全然青春っぽくない。やってて楽しいのは試合のときだけだよ。サッカーの話なんかより、デートの話聞かせろよ。」

「いやだからデートじゃ・・・、もういいや。見に行った映画は、まあ、楽しかったよ。」

「映画は、って何だよ。買い物はつまらなかったってか?」

「買い物は、由奈の買い物に付き合っただけだったからなぁ。特に僕が何か買うとかは無かったし。」

「何買いに行ったんだ?」

「由奈が服見たいとか言ったから、服見て回ってただけだな。」

「服屋は、まあ、ベターな感じはするけど、でも、少しも何とも思ってない相手と、服屋に行くかね?」

「別に、男として見てない相手となら行くんじゃないか?兄弟とか。」

「確かに、俺も姉貴に付き合わされたな・・・。いやでも、別にお前らは兄弟ってわけでもないんだから、俺の場合とじゃ、話が違うだろ。」

確かに、兄弟とは違うが、だからといって、男女の仲とかいうカテゴリーに割り切れる様なものでもないと思うが。

「因みに、由奈は楽しそうだったか?」

賢人は、立て続けに質問する。

「由奈か?由奈は・・・、まあ、楽しかったんじゃないか?見た映画も、買い物も、由奈が言い出したわけだし。」

賢人は頭が痛そうに顔をしかめる。

「相変わらず、他人に興味なさそうだな。真言って。観察力はあるはずだから、まともに見てればすぐに気づけそうなもんだが。」

「人を心が無いかのように言うな。周りが見えてないのは、賢人だってそうだろ。他人に言えるか?」

賢人は一瞬、怯んだような顔をしたが、負けじと言い返してくる。

「俺のは、周りを見るだけの観察力が不足しているだけで、他人のことを見てないわけじゃない。けど、お前は見えてるはずなのに、それを気に留めないのが問題なんだ。前提が違ってるんだよ。」

そうは言われても、すんなりと納得はいかない。

「言われると確かに、前提は違う様に感じるが、でもそれって、結果同じじゃないか?」

「いや、俺が言いたいことは、結果がとかじゃなくて、観察力はあるんだから、あとは他人への興味されあれば、相手からしたお前への態度がどういうものかぐらい、すぐ気づけそうなものだっていう話だよ。」

「他人への興味ねぇ・・・。」

昔から他人への興味なんて、こんなものだと思っていたから、賢人からした基準というものがイマイチ、ピンとこない。

「まあ、頑張ってみるよ。」

「努力で変わるようなものとは違うとも思うけどな。因みに聞いておくが、真言って、由奈のことどう思ってるんだ?」

「由奈のこと?うーん、友達じゃないか?」

「それだけ?」

「まあ、仲がいいほうだとは思うかな。」

「はー・・・」

ため息をつく賢人。

「な、何だよ。」

「お前それ本当に、ただ、とぼけてるだけとかじゃないんだよな?」

「別に、何か隠すようなところとかも、特にないぞ?」

「お前、本当に由奈のこと見てるか?」

「は?見てるよ。当たり前だろ。」

何言ってるんだ、こいつ。

「まあ、いいや。真言、人と人との関係って、いつまでも変わらないなんてことはありえない。俺とお前、由奈と真言、瑠璃さんと真言、どれを取ってもだ。」

「何が言いたいんだ?」

「まあ、聞け。話す機会がなければ、関係は衰退していくし、逆にコミュニケーションが上手く取れていれば、仲が進展することもある。」

「うん、まあ、そうだな。」

「そして俺は由奈が好きだ。」

「え、え〜・・・。」

突然のカミングアウトに戸惑う。どう反応すればいいんだ?ていうか、何で今このタイミングで、僕にそれを言うんだ?

「男女の仲として好きだし、いずれは付き合いたいと思っている。」

「そ、そうなんだ・・・。」

だから、それを僕に言ってどうするんだ・・・。

「付き合う相手として、由奈以外、考えられないくらいに思っている。だから、一緒にいたいって思う。けど、選ぶ権利は由奈にある。惚れている時点で、俺に選択肢はないだろう。」

「まあ、確かにそれはそうだな。」

「それで、真言はどうなんだ?誰かを選んだり、惚れたり、それだけの想いとか、経験は無いのか?」

「いやー・・・。特にないかな・・・。」

「はー・・・。今の調子なら、今後も苦労しそうだな。誰も好きにならず、惚れ込むことも無い。それだけの熱が無い。そんな枯れた状態で、健全でいられるのか?」

「すげえ言われようだな・・・。」

本当に、言いたい放題言われているという感じだ・・・。

「ついでに聞いておくが、瑠璃さんのことはどう思っているんだ?」

「瑠璃?瑠璃は友達だろ。」

「本当に?」

賢人は、疑念の目でこちらを見てくる。

「・・・なんだよ。」

「まあ、よく考えるんだな。」

「何を偉そうに・・・。お前だって大した経験ないだろ。」

「そ、それはそうだけど!・・・まあ、他人のことばかりも言ってられないのは事実か・・・。由奈からイエスが引き出さないといけないしな。」

「ああ、その意気だよ。」

「あー、こんな話したら気まずくなってきたな・・・。」

先程まで、なんてことの無いように毅然とした態度で振る舞っていた賢人だったが、今更、羞恥心を覚えたのか、顔を真っ赤にして目を泳がせている。

「じゃ、俺は先に帰るから!じゃあな!」

そう言うと、賢人は僕を置いて一人で走って先に行ってしまった。

その後、しばらく歩いて駅に着いたが、もう賢人の姿は見当たらなかった。

どうやら、本当に先に帰ってしまったようだ。

「マジで、なんだったんだろうな・・・。」

やることもなかったので、その後は僕も大人しく帰宅した。



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