五章
休みが明けた月曜日。
月曜日というのはいつだって憂鬱だ。
何かやらされるということはないが、やはり、学校に行くということが、その憂鬱さを招いているのだろう。
僕は勉強に苦手意識は無いが、ストレートに言って嫌いだと言える。
なぜ、勉強が嫌いだと思ってしまうのか。それは、結局やらされているという意識が働いてしまうからだろう。
じゃあ、やらされていない場合はどうなのか?
やらされていないと言えるならば、嫌悪感はさほど感じない。
というか、やらされていないと自身で感じる場合というのは、ほぼ無意識で、自主的にやっているだけというのが正直なところで、それこそ得意な数学では、教科書の内容を読むだけで基本的な解法は理解できてしまうし、問題があると自然と解こうと思ってしまう。解けなかった問題はどの様にすれば解けるのかという方法が気になってしまう。
つまり、それを理解したいという欲求が働くわけで、それはゲームしたいとか、読書したいとかいうそれに近い。
ゲームや読書のノルマがあったとしても、それを勉強と言う人は基本的にいないだろうし、僕が数学について知識を得る場合にも、それを勉強として捉えずにやることが多い。
そう言いつつ、宿題として出される問題集は解かずともわかるため、解答を丸写ししているのだが。
つまりは、勉強という単語が付く場合は、やらされているという印象が強くなる。
学校生活もまさにそれで、何をやるにしても、それは自分自身の意思ではなく、何かやらされている、という意識が強い。
そんな生活を送っているからこそ、学校が憂鬱と感じて仕方が無いのだろう。
そんな憂鬱を感じながらも日常は進み、気づけばもう昼休みである。
僕が自分の席で昼食を取っていると、暇を持て余した様子の由奈が近づいてきて、僕の目の前の席に腰掛ける。
「今日もボッチ飯?」
「いつもボッチ飯だよ。」
「いつもそんな感じだけど、友達作ったりしないわけ?」
「作ろうと思って作れるものではないと思うけどね。」
「真言、普段そんなことないけど、意外とこれで結構、プライド高いもんねー。」
「そうか?そんなことないと思うけど。」
そう言われて僕は顔をしかめる。何か、プライド高いと思われるような行動やエピソードはあっただろうか?
周囲には、変に思われないように気を遣っているつもりだが・・・。
「自分じゃそんなことないって思っているところが、まさにそれだと思うけどね。まあ、瑠璃とかの遊び相手はいるから、友達作ろうとかいう気にもならないんだろうけど。昨日、今日の休み中も、瑠璃の家に行ってたんじゃないの?」
「ああ、確かに行ったね。けど、着いて早々に海行きたいとか言われて、引っ張られて片瀬海岸まで行ってきたよ。」
僕はつい、そのときの状況を思い出して苦笑いしてしまう。
「アハハ!海行ってきたの!?青春してるねー!」
僕の話を聞いて、さぞ可笑しいと言いたいかの様に由奈が笑う。僕が由奈の立場だったとしても、似たような反応をしていただろう。
「まさに青春だったな。マジで大変だったよ。往復で合計四時間とか掛かってさ。」
「そりゃ大変でしょ。どれだけ距離あると思ってんのよ。」
由奈は笑い足りないと言うかのように笑い続ける。ひとしきり笑うと、ふと遠い目をしてぽつりと呟く。
「そっかー、江ノ島かー。いいなー・・・。」
窓の外を見て何か考え込む由奈。
かと思えば、ふと、何か思いついたように、スマホを操作し始める。
「そうだ真言、この映画見た?」
そういって、由奈が見せてきたスマホの画面には、「森の中の沈黙」という、ミステリー映画の予告動画が流れていた。
このミステリー映画のシリーズは、僕と由奈が互いに見ていると話したことがあったから、今回話題に出してきたのだろう。
僕自身、近々一人で見てこようと思っていたタイトルだ。
「いや、見てないな。どうしてそんなこと聞いてくるんだ?」
「そうなんだ。じゃあ、今週末、一緒に見に行かない?」
これまでに無い提案だ。瑠璃の家に行く以外で、由奈とどこかに行ったようなことは、今までに無かったはずだ。
「え?ああ、いいけど。他に誰か来るのか?」
「いや?特に誰か、このシリーズ見てる子とかいないし、ミステリー好きな子とかもいないから。」
「そうなんだ。じゃあ、二人きりってこと?」
「そ、二人きり。」
「珍しいな、二人きりは。そもそも、由奈にどこか誘われること自体が初めてか?」
「そりゃあ、基本的には女友達と出かけるからね。真言を誘う機会なんて、今回みたいな場合しかないでしょ。」
「まあ、それはそうか。」
言われて、それが当然の様に感じる。
そもそも、僕自身の交友関係が狭く、誰とも交友を持とうとしない異性の友達を、わざわざ由奈の立場で遊びに誘うかと言われれば、わざわざ誘わない、というのが正直なところだろう。
由奈は手元のスマホをいじりながら、会話の続きをする。
「映画館はここでいいよね。」
そう言って、またスマホの画面を見せてくる。
「あとでラインでも送っておくから。あと、映画見た後に買い物にも行きたいから、そのあとの時間も空けておいて。」
「うん?買物?わかったけど、何を買いに行くんだ?」
「そりゃあ、当日、欲しいと思ったものを買いに、だよ。じゃあ、よろしくね。」
それだけ言うと由奈は、前の席から腰を上げて、クラスメイトの友達の会話に混ざりに行ってしまった。
一人残された僕は、由奈の行動に何か裏があるのではないかと、無意味に疑心暗鬼になっていた。
出掛ける約束をしたあの日からあっという間に時間は経ち、今日がその当日。
休日に男子高校生が同級生の女子高生と出かけるというのは、何とも理想的なシチュエーションと言えるのではないだろうか?
と言っても、僕としては、由奈は友達という感覚が強すぎるせいで、一般的に妄想するようなドキドキ感は全く感じられないのだが。
敢えて、一緒にデートする情景を浮かべるのであれば、例えば・・・瑠璃とか?
いや、瑠璃で例えるのには無理があるか。前提として、一般の枠組みから外れ過ぎているせいで、男女のイチャイチャみたいなものが、全く思いつかない、というか、恋愛をしていたはずが、いつの間にか切磋琢磨するスポ根マンガみたいな展開に成りかねない。
目的地の最寄り駅に向かっていた電車が、その最寄り駅に到着し、駅前の広場に待ち合わせの予定10分前に到着する。
待ち合わせの指定場所でスマホをいじりながら待っていると、その5分後に由奈が到着した。
「お待たせー。どのくらい待った?」
「いや?そんな待ってないよ。着いたの5分位前だったかな?」
「ああ、そうなんだ。じゃあ、今度はもう少し早く来るようにするわ。」
「いや、そんな気にしなくていいよ。いつもこのぐらい早く来れるかはわからないし、そもそも次があるかもわからないから。」
半分、冗談のつもりで言ったのだが、
「何?私と出かけるの嫌?」
想定以上に嫌味に聞こえてしまったようだ。
「いや、そうは思ってないけども。」
まあ、今回の僕の返しが、誤解を生みかねないのは確かだったが。
「じゃあ、今度から私が誘ったら絶対断らないでね。」
「僕のこと、召使いか何かかと思ってる?」
「召使いだなんて、そんな。奴隷ぐらいには思ってるけど。」
「召使いの方がマシじゃねえか!」
二人で出掛けて初めての仕打ちがこれである。
「だって、真言誘っても、荷物持ちぐらいにしかならなさそうだし。」
「じゃあ誘わなくいいだろ・・・。」
「いないならいないで不便じゃん。まあ、今日は、一人で映画見てもつまらないからと思って誘ったけど。」
次、誘われる様なことがあれば断ってやろうかな・・・。
そんな感じのくだらない雑談をしながら、歩いていると、いつの間にか映画館に到着してしまう。
「真言、いくら持ってる?」
「え、もしかして、タカるつもりか?」
「いや?いくら持っているか、ちょっと気になっただけだよ?」
そう言う由奈の声は、某何とかランドの○ッキー波に上ずっていた。
まあ、冗談だろうが。多分・・・。
「・・・とりあえず、チケット買うか。」
僕が、そう声をかけて、二人揃って券売機でチケットを買う。
さっきのは本当に冗談だった様で、由奈は自分の分のチケットをちゃんと自腹で購入していた。
僕もチケットを買って、由奈に質問する。
「ポップコーンと飲み物は買うか?」
因みに僕は、映画に集中するため、普段は飲み物もポップコーンも買わない。
「真言の奢り?」
またタカられる・・・。
「奢ってください、真言様、とでも言えば、奢ってやるよ・・・。」
僕は疲れた声と表情でそう答えた。
「アハハ、冗談だよ。私はいつも何も買わないけど、真言は買う?」
「いや、買わないかな。」
「じゃあ、無しで良いよね。上映、あとどれぐらいだっけ?」
館内の時刻表示は十時五十五分を指していた。
さっき購入したチケットに記載されていた上映開始時刻は、確か十一時五分だったはずだ。
「あと、十分ぐらいじゃないか?」
そんなことを話していると、館内に僕たちが見る映画の開場のアナウンスがかかった。
「入ろっか。」
由奈の誘導に従って、館内に入った。
上映スクリーンに入って自分の席に着席すると、由奈が話しかけてくる。
「真言はこの映画の原作って読んだ?」
「ああ、読んだことあったな。」
「え、あったの?じゃあ、内容知ってるんだ。」
「いやあ、読んだの二年前とかだったはずだから、大まかなあらすじ覚えてるとかいうレベルで、細いところがどんなだったかはうろ覚えだから。」
「そっか。まあ、中身知ってて興味ないとかだったら、来る前に断ってるか。」
「別に、映画は映画で楽しめるから、原作読んでても、ものによっては見に来るよ。」
「私の場合、内容知ってるなら見に来ないんだよねー。」
「一応、僕、付き合いで来てるんだけど・・・。」
なぜ真っ向から、僕の行動を否定するのだろうか・・・。
そんな会話をしていると、館内が一段と暗くなる。そろそろ本編が始まるようだ。自然と会話が終了し、間もなく映画本編が始まった。
映画のエンドロールが流れ、それも終わり、館内が明るくなる。
館内の人々が立ち上がって、皆、出口に向けて移動し始める。
「ふー。結構、面白かったね。」
着席したままの由奈が僕に話しかけてくる。
「ああ。正直、原作の内容、殆ど忘れてたから、見てて結構新鮮だった。」
「とりあえず、ご飯食べたいけど、真言はどこかあてはある?」
そう言われてスマホで時刻を確認すると、時刻は十三時手前を指していた。
二時間弱ぐらいの上映時間だったらしい。
確かに、少し空腹を感じる。
「特にお店の宛は無いけど、由奈はどこか行きたい場所はある?」
「どこでも良いよ。」
やべえ・・・。女子が言う『どこでも良いよ』は、どこでも良くないと聞いたことがある・・・。
「お、おしゃれなパスタの出るお店とかですかね・・・。」
「なに、真言、そんな店知ってるの?」
「いや、すいません、適当言いました・・・。」
「なんで、適当言ったの・・・。まあ、どこでも良いから、近くにファミレス無かったっけ?そこ行こ。」
どうやら、本当にどこでも良かったらしい。
今回もまた、由奈に誘導されるがまま、映画館の近くにあったファミレスへと入った。
席に着いて、間もなく注文も終わると、先ほど見た映画の話になる。
「映画、演出とかもよくできてたな。」
由奈は少し興奮した様子で感想を話してくる。
「うん、めっちゃ良かった!ドラマでやっていた内容の続きだっていうのは知っていたけど、主人公じゃなくて、親友の刑事にフォーカス当たってたのはちょっと意外だったかな。」
こういった、フィクションの話をしているときだけ、由奈の語り口は饒舌になる。いわゆる、オタクの早口といった感じだ。
いつもの気怠げで何に対しても適当な感じからすると、こういった一面があることは新鮮に感じられる。
「それは確かにそうだな。このシリーズ的に、主人公と犯人側にフォーカスを当てる展開がメジャーだったから、今回はこれまでのシリーズの掘り下げみたいな感じがした。」
「うん、確かに。けど、あの親友の刑事、原作だと毎回主人公のバディみたいな役柄だけど、ドラマだとあまり出番が無かった印象なんだよね。」
「まあ、それはあるな。ドラマだと、草薙の代わりにオリジナルの女性キャラクターが出てくるし。」
「ドラマ化にあたっての見映えとか言う感じかなぁ。別に、男どうしのペアでも良かったと思うんだけど。」
いつの間にか映画の感想から、これまでのシリーズの話に切り替わっていて、最終的には、別作品の話題にもなっていたが、そんなことはお構いなしに僕らは話し続けた。
満足するまでカフェで話した後、予定していた通り、由奈の買い物に付き合うことになった。
ショッピングモール内の店を見て回り、気になった店を見つけては店内に入り、中を見て回る。僕は特にやりたいこともないため、由奈の後ろについて回った。
由奈が何を楽しくてそんなことをやっているのか、僕にはいまいちわからなかったが、由奈からして楽しいのであれば、一々水を差すのは気が利かないというものだろう。
「次、あのお店行こ!」
由奈に誘導されるままに、如何にも流行を売りにしている感じの洋服店に入り、店内を見て回る。
当然ながら、と言っていて悲しいが、僕には物の良し悪しが点でわからない。
「これ、可愛い!見て見て!」
そう言いながら、テンションが上がった様子で、由奈は手に取った服を見せてくる。
「うん、可愛いね。」
「あはは、何もわかってなさそうな反応。まあ、真言にはわからないか。」
どうやら、見透かされていた様だ。つまらなさそうな態度が表に出ないように取り繕っていたつもりではあったが、さすがに隠しきれなかったのだろう。
由奈は、僕の態度に見切りをつけたのか、鏡を見ながら自分の体に合わせる。
「うーん、こんな感じか、、、。似合う?」
そう言って、鏡で見ていた体勢で、再度僕にも見せてくる。
「いや、由奈のお察しの通り、僕じゃあよくわからないよ。」
「いや、服がかわいいかじゃなくて、私に似合っているかを聞いているんだけど。」
そう言われて、もう一度真面目に見直す。
「うーん、多分、似合っていると思う。」
「フッ、多分って何?まあ、似合っているなら良いんだけど。」
そう言いながら、少し満足気に、もう一度鏡に向き直る。
「うん、これは買っておこうかな。」
そう言って由奈は、先程まで見ていた服を手にしたまま移動を始める。
手持ち無沙汰な僕は、由奈の後を追いながら店内を見回して今更ながらに思う。これってデートなんだろうか?と。
まあ、外からみればそう見えなくもないかもな、という感じか・・・。
当の本人である僕からすると、そんな、男女の仲みたいなものじゃなく、友達として外で遊んでいるとかに過ぎないし、由奈からしてもそんな感じなんだろうけど。
その後も由奈は洋服を手にとっては、かわいいとか、うーんとか言いながらも、たまに自分の体に服を合わせて楽しそうにしていた。
そんな感じで買い物を続けながら、あるときふと、由奈がなんでも無いことのように、僕に問いかける。
「真言は、瑠璃の留学の話聞いた?」
「え?あ、ああ、聞いたよ。先週、海に行ったときに。」
突然の話題転換に少しドキリとしながら受け答えする。
「そうなんだ。真言は瑠璃に何て言ったの?」
「僕は・・・、個人的には行ってほしくないけど、でも、最終的に決めるのは瑠璃次第だから、みたいなことを言った気がする。」
「気がするって何それ。」
苦笑いで答える由奈。
「それに結局、瑠璃次第っていう部分の丸投げ感が、まあ、真言らしいというか何と言うか、無責任、っていう感じがしなくもないけど。」
「その言葉、鋭すぎて聞いているだけで胸に刺さる・・・」
「まあでも、予想通りというか、そんな感じだろうなぁ、とは思ってはいたんだけど。」
「お察しの通りで・・・、由奈はこのこと、いつから知っていたんだ?」
「中間テストが終わった日の夜。その連絡が来たのが、その時だったから。」
「そうだったんだ・・・。僕に散々言った由奈は、瑠璃に何って言ったんだ?」
「私は・・・、留学してみてもいいんじゃないか、って伝えた。瑠璃自身は、どの程度留学する気があるかわからないけど、留学したくない理由が無いなら、挑戦してみたほうが、面白いんじゃない?って。」
確かに、そういう考え方もできる。
少なくとも、由奈や僕らのような、一般的な人間からすると、留学なんてものは、普通ではできないような体験に違いない。
けど、それは瑠璃からしても同じだろうか?瑠璃の能力を考えれば、留学程度なら造作も無いことではないだろうか?
由奈もそのぐらいは薄々気付いているのではないだろうか?
それに、それが由奈の本心というようにも考えづらい。
「それは、由奈の本心?」
「え?そうだけど、何で?」
「何となくだけど、普段の由奈なら、別の返答を出しそうな気がして。」
「普段の私ねぇ。例えばどんな?」
普段の由奈ならどう答えるか。少し考えてみたが、これといった答えは見つからない。
さっきの由奈の言葉に違和感だけはあったが、だからといって、じゃあ普段ならどういった答えが返ってくるか、という明確なものは思いつかなかった。
「ごめん、それほど明確に何かあるとかはなくて、何となくの話だったから。」
「ふーん、そ?まあ別に、私は普段からそんな考えて発言してるつもりもないから、そのとき次第で意見が二転三転してても、不思議じゃないと思うけどね。」
何の気もないかの様に、展示されている服を見ながら由奈は答えた。
その顔に、何か隠している様な様子は見られない。
そんな風に思っていると、由奈の顔がこちらを向いて質問してくる。
「そんな話題掘り下げてもつまんないからさ、何かもっと違う話しようよ。例えば、真言は留学できるってなったら行く?」
少し、強引な話題展開に思えなくもないが、僕からしつこく質問するようなこともなかったので、由奈の質問について、少し真面目に考えてみる。
「留学かぁ・・・。行ってもなぁ、って僕は思うけど、何か行くことによるメリットとかある?」
「海外なんだから、そりゃあ、生活スタイルの違いとか、価値観の違いとかあって、新鮮な体験ができて、面白そうじゃない?」
「別に僕は、興味ないかなぁ・・・。」
「無気力だなぁ・・・。積極性とか、向上心とか無いの?やりたいこととか、成りたいものとか。」
「やりたいことねぇ・・・。」
それを聞いて、何かあるか考えてみる。
正直、普段はこれと言ってやりたいものとかは意識しないため、すぐにパッと思いつくようなものはない。
ただ、思いつきではあるが、ちょっとやってみたいぐらいに思ったものはあった。
「小説家とか、脚本家とかならやってみたいかな、とは思うかもな。そういうフィクション作品が好きだし。こういうことは、由奈も理解できるんじゃないか?」
「まあ、それはわからなくもないけど、でもやっぱり、私は読むのが好きなだけで、書くのは違うかな。」
「何か書いたことでもあるのか?」
「ま、まあね。書いた内容がつまらなくて、すぐに書くのを辞めたけど。真言は無いの?何か書いたこと。」
「自分で切り出しておいてなんだけど、僕は無いな。」
「今度、書いてみてよ。できたら見せて。」
「嫌だよ・・・。まあ、気が向いたら書いてみようかなぐらいには思うけど。」
口ではそう言ったが、すぐに忘れそうな気がするな・・・。
まあ、普段から特にやることもないから、ちょっとぐらい挑戦してみてもいいかもしれないな、ぐらいには思った。
ショッピングを終え、やるべきことも一通り終わったため、ショッピングモールを出て、駅へ向かった。
駅までの道のりもそんなに距離は無く、すぐに駅へと到着する。
駅に到着すると、別れの合図を由奈から切り出してくる。
「じゃ、また学校で。」
「ああ、じゃあな。」
そう言って、去っていく由奈の背中を見送った。
人混みで由奈の背中が見えなくなったところで、僕も別路線の改札へと向かった。