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二章

朝七時。いつも通りの起床時間だ。

昨日は結局、僕が帰宅する夜十九時まで、ずっとゲームをしていた。

瑠璃の家に着いたのが十六時ぐらいだったので、三時間ぐらいはゲームしていたことになる。

流石に昨日の夜は、瑠璃の眠気が限界だったようで、瑠璃がウトウトしだしたタイミングで、僕は帰宅した。

瑠璃も流石に昨日は寝たことだろう。

今日も当然、学校があるため、僕は七時半には家を出る必要がある。

僕の部屋は二階にあるため、そろそろ一階に行こうとしたタイミングで、一階にいる母から声がかかる。

「真言〜。起きて〜。」

「起きてるよ。今行く。」

一階の母に声が届くぐらいの声量で言うと、手早くパジャマから学生服に着替える。

着替え中、瑠璃が起きているか気になったため、ラインを送ってみる。

- 起きてるか?

返事を期待しての送信ではなかったため、送信後、スマホのディスプレイを消して着替えに戻ろうとしたのだが、間を置くことなくラインの通知が来る。

服を着てラインの画面を確認すると、瑠璃からのレスポンスが来ていた。

- 今さっき起きた。どうかした?

返事を確認してから着替えを終え、階段を下りながら返信を送る。

- 起きてないかと思って送信したから、即レスがきて、びっくりしてる。用事は特にない。

送信してから、送信した内容を思い返してみて、今の絡み、向こうからしたらうざくないか?と思った。

まあ、瑠璃からしたら、そんなに深く考えていないかもしれないが。

一階に降りて、食事の席に着いたタイミングで、再度、瑠璃からのラインが届く。

- 十二時間も寝ると、流石に目が覚めるからね。真言の方こそ、起きているのがびっくりだよ。

今から、十二時間前ということは、僕が帰ってすぐに寝たことになる。

- いや、僕は学校があるから。瑠璃も、この時間に起床しているなら登校できそうだな。

- 私は自宅警備に忙しいからね!それに、システム開発の仕事もあるかもだし。

自宅警備は、忙しいと言えるか怪しいが、仕事があるなら、わざわざ学業を優先するまでも無いだろうなと、納得してしまう。

学生相手に、変な話ではあるが。

- まあ、そんなところだろうと思ったよ。今日は、寝不足せずに、早く寝ろよ?

- 昨日も早く寝たよ?

- じゃあ、一昨日は?

- 二十時くらいに起きたかな?

つまり昨日は、丸一日ぐらいは起きていたということになりそうだ。

- 体調崩すなよ?

瑠璃から、謎の猫スタンプが送られてくる。相槌みたいな意味合いだろう。了承でも、反論でもない。

ここらが、会話の切り上げ時だろう。

そう思い、スマホのディスプレイを消して、朝食に手を付け始めたタイミングで、玄関の母から声がかかる。

どうやら、仕事に行く時間らしい。

「母さん、そろそろ行くから、遅れないようにね。じゃあ、仕事行ってくるから。」

「はーい。いってらっしゃい。」

その後、扉の開閉音がして、家の中の自分以外の音が消える。

僕も、登校までの時間に余裕があるわけではないので、急いで朝食を食べる。

朝食を食べ終え、歯を磨き、すぐに家を飛び出る。

時刻は七時半ちょうど。大急ぎで飛び出して七時半ちょうどなので、もう少し、余裕を持って行動する必要がありそうだ。

家を出てから学校へ向かうまでの道のりはいつも通りで、八時手前には学校に着いた。

学校到着後、暇つぶしにスマホを触りながら時間を潰していると、しばらくして始業の鐘がなる。

鐘がなってすぐ、クラス担任の竹田がやってきて、ホームルームが始まる。

朝の事務連絡が少しあり、一通りの流れが終わると、朝のホームルームが終わる。

ホームルームが終わり、竹田が教室を出ていこうとして、何かを思い出したかのように足を止める。

「あ、そういえば、結城、ちょっといいか?」

「え?あ、はい。」

教室の外に手招きされて、教室を出ていく由奈。

少しの間、竹田と会話をしていたが、一分もせず、会話は終わったようで、由奈は自分の席に戻っていき、クラスメイトの女子たちと会話を始める。

何を話していたか、少なからず気にはなったが、あの女子連中の中にわざわざ入っていって聞くほどのことでも無い。

それよりもトイレに行きたいので、一時間目が始まる前に、トイレに向かった。

廊下を歩いていると後ろから声をかけられる。

「あ、いた。真言、ちょっと」

振り向くと、そこには由奈が立っていた。

僕が教室を出たところを見て追ってきたようだ。

「由奈か。何かあった?」

「いや、特には。真言が一人、寂しそうにどこ行くのかなと思ってついてきただけ。」

「寂しいってなんだ。トイレ行くだけだよ。」

「一緒にトイレ行くような友達もいないもんね。」

「トイレはむしろ、一人で行かせてくれ・・・。」

「まあ、冗談はこのぐらいで、本題はさっき、先生に呼ばれた内容なんだけど、瑠璃にそろそろテストがあるから、テストだけは出席するように伝えといてくれって言われたんだけど、真言、今日は瑠璃の家に行く予定ある?」

「今日も行こうかなとは思ってる。」

「じゃあ、瑠璃にこのこと伝えておいて。」

「由奈が伝えるのはダメなのか?」

「今日は放課後、委員会の仕事があって瑠璃の家に行けそうにないから。ラインでも連絡しておくけど、念のため、口頭でも伝えておいて。あの子、ラインだと見てないことあるから。」

「わかった、伝えておくよ。」

「じゃ、それだけだから。授業に遅れないようにね。」

そういうと、由奈は教室に戻っていった。

「呼び止めたのは由奈の方だろ。」

去っていく由奈の背中に向かってそう呼びかけたが、聞いている素振りはなかった。

別に、返事を期待しての呼びかけではなかったので、僕は気にせずトイレに向かった。

それにしても、先程、由奈が呼ばれていた内容を聞いて腑に落ちた。

この学校では、登校日数に関わらずテストの点数が良ければ成績が付与され、進級できる。

進級条件に投稿日数が含まれないわけだ。

ひきこもりをしている瑠璃にとって、進級するために、必須参加となる。

クラス担任の竹田からしても、それがわかっているからこそ、瑠璃と仲の良い由奈に念押ししてきたというわけだ。

可能なら、僕もひきこもってゲームしていたいなと思わなくもないが、瑠璃みたいに、普段の授業を受けていない状態で赤点を回避するだけの知能を持ってはいない。

それに、不登校なら不登校で、登校しなくても大丈夫なのか?という不安に囚われそうだから、普段から登校して、周りと同じことができているというつもりになっていたい、というのが、僕という人間なのだろう。



一時限目から四時限目まで、何の問題もなく授業は進み、昼休みになった。

僕はいつも通り、弁当を持参しているので、自分の席で弁当をバックから取り出して開いていると、傍らから賢人に声を掛けられる。

「真言、一緒に食べようぜ。」

「ああ、別にいいよ。」

僕の返事を聞くと、賢人は購買で買ってきたらしきパンを僕の机に置いて目の前の席に座る。

僕は普段、一人で食べることが多く、賢人は別のクラスメイトと食べているため、こうやって一緒に食べることは、たまにしかない。一緒に食べるからといって、特別なにか話をしたりするわけでもないのだが。

賢人がパンを袋から出して、一口食べ始めたところで、僕に話しかけてくる。

「真言は、学校楽しいか・・・?」

「は?一発目からなんだ、その父親みたいな質問は?あと、なんで口に物を含んでから話し始めるんだよ。」

「まあまあ、俺のことは置いておいて。」

むしろ、その癖をすぐにでも直してもらいたいのだが。

僕の指摘などどうでもいいという様に、賢人は話の続きを始める。

「いっつも、一人で飯食って、休み時間もずっと自分の席で一人きり、そんなので面白いのか?っていうことが聞きたかったわけ。」

相変わらず失礼な質問ではあったが、僕なりの答えを返してやる。

「愚問だな。人には、人それぞれの価値観があって、僕としてはそれが良いと思ったから、一人で過ごしているんだよ。別に面白いとか面白くないとか、そういう考えで動いてはいない。」

「その考え、なんかつまんなさそうだな。」

「僕からしたら、賢人のその脳天気な考え方こそ理解できないね。」

「それこそ、人それぞれの価値観ってところだろうな。まあ、ちょっと気になったこと聞いただけだから、正直、なんでもいいんだけどさ。そういえば今朝、由奈と何か話してなかったか?」

「今朝?いつのことだ?・・・ホームルームのあとか?」

「そう、それ。教室の外で話してたとき。」

こいつ、良くそんなこと覚えてるな?そんなに記憶力よかったか?

「別に、大したことは話してなかったけど。そろそろテスト期間だから、瑠璃に周知するように、由奈から頼まれただけ。」

「何だ、そんなことだったのか。急いで出ていった様に見えたから、何か大事な話でもあったのかと思っていたんだが。にしても、瑠璃さんねぇ。俺も瑠璃さんくらい頭が良ければ、学校来ないんだけどね。」

「はっ、賢人では無理だろうな。」

「笑うな。無理なことぐらいは俺でもわかってるよ。言ってみただけだ。真言だって、似たようなことは考えるだろ?」

「うん?まあ、無くはないかな・・・。」

「真言的には、瑠璃さんが登校しないことについて、どう思っているんだ?」

「瑠璃が登校しないことについて?うーん・・・。僕的には、瑠璃の意思が尊重されることが、一番重要だと思っているけど。」

「いや、まあ、それはそうなんだけど。そうじゃなくてさあ、瑠璃さんの意思を考慮から外して、真言として、どうなって欲しいのか、っていうのを俺は聞きたいわけ。」

「ああ、なるほど。僕の意向として、ね。」

そうは言われても、僕が瑠璃にどうあって欲しいとかは、特にないのが正直な答えなんだが。どう答えたものか・・・。

一応は、一緒に学校生活が送れた方が楽しいだろうな、ぐらいの思いはある。

ただ、それで瑠璃の居心地が悪いというのであれば、不登校のままの方が良いと思っている。

居心地悪そうにしている瑠璃を見ている方が気疲れする。

「まあ、僕個人としては、一緒に学校生活が送れれば、友人としても楽しいだろうし、あと、やっぱ、高校生なんだから高校生として過ごせるならそれはそれで楽しいんじゃないかな、ぐらいには思っているよ。」

「ふーん。なるほどねえ。」

賢人はなぜか満足そうな顔をした。そもそも、なぜこんな内容の話をしてるのかがわからないのだが、こんなどうでもいいことを聞いて楽しいのだろうか?

「この質問って何のための質問なんだ?」

「いや?真言の本心が聞きたいと思って。いやー、でもそうか。真言はそういう風に考えているのかあ。なるほどねえ。」

やたら鼻につく話し方をしてくるこいつは、マジで何なのだろう。

「そのキモイ感じやめろ。お前こそ、濁した感じの答え方じゃなくて、もっとわかりやすい答えを言えよ。」

「わかりやすい答えねぇ。本当に聞きたいか?」

「は?もちろん、聞けるのなら聞きたいが。何でそんな意味深なんだ?」

「まあ、そりゃあねえ。真言が好きな瑠璃さんの不登校について、どう考えているのか、なんてストレートに聞いても、素直に答えてくれなさそうだなあ、とか思ってさ。」

「またそれか・・・。しつこいぞ?」

「そうは言ってもさ、お前の瑠璃さんへの入れ込みっぷりは、相手へ好意あってこそだろ。じゃないと絶対おかしいって!」

賢人にそう言われて、自分の行動を振り返ってみる。

・・・確かにそう思われても仕方ないような気はする。

だが、僕としてはそんな気は無いので、否定する他ない。

「だから、そんなんじゃないって・・・。しつこいな・・・。」

「まあ、否定するのはいつものことだけどな。うーん、でも、もっと青春っぽいことして欲しいなぁ。じゃないと俺が面白くない!」

「だからしないんだよ・・・。」

これ以上、この話を広げたくないため弁当を食べることに意識を集中させる。

「あ〜あ、つまんねえの・・・。あ、そういえば、山本に話しておきたいことがあったんだ。山本のとこ行ってくるわ。」

そう言うと賢人は、もう話したいことはないというかのように、そそくさとクラスメイトの山本君の席に移動してしまう。

僕としても、あのまま一緒に食事するよりも一人で食事する方が気が楽だったので、ちょうど良かった。



弁当を食べ終えて、やることもなくスマホを触っていると、由奈が話しかけてきた。

「賢人と何話していたの?」

顔を上げて由奈の方を向くと、由奈はそのまま僕の目の前の席に座る。

「今朝、由奈と何を話してたのか、っていうのを賢人に聞かれてた。由奈が急いでた様に見えたから、大事な用でもあったんじゃないか?みたいに思ったらしいよ。」

「あいつ、なんで私のこと見てんの?キモ〜。」

僕は苦笑いした。

「まあまあ、そう言ってやるなよ。たまたま目に入ったとかだろ。」

「でも、朝に話した内容なんて、瑠璃にテストの連絡しておいて、ってことぐらいだよね?」

「まあ、そうだな。」

「にしては、結構長々と話してたことない?他に何か話してたの?」

「お前も大概、突っ込んだ質問してくるよな・・・。」

「いいじゃん。ちょっとした暇つぶしの話題にさせてよ。」

暇つぶしにしては、安易に踏み込み過ぎではないか?

まあ、こっちが拒否すればひいてくれるだろうけれども。

そもそも、今回の話題に関して言えば、どうしても話したくないとかいう類でもない。

「賢人がしつこく、僕が瑠璃のこと好きなんだろ、みたいなことを、くどくど話してただけだよ。」

「うわー、それはウザい」

「だろ?」

「てか、あいつ、いつもそんな感じなの?」

「普段も、まあまあウザいけど、今日は特に酷かったな。」

「私から、何か言っておこうか?」

「いや、いいよ。てか、何で由奈から?」

「だって真言、あんまり人に文句言わないじゃん。」

確かに僕は、人にとやかく言う方ではないが、賢人にはそれなりに言っているつもりではある。

「賢人にはちゃんと言ってるから、大丈夫だよ。」

「そう?」

「因みに聞いときたいんだけどさ、由奈の目から見ても、僕が瑠璃のこと好きに見えるか?」

由奈はその質問を聞いて、一回考えたポーズをとってから、ニヤニヤ顔で答えてくる。

「まあ、見えるよね、そりゃあ。」

そのときの由奈の表情は、賢人がウザ絡みするときの表情と同じだった。

「そのニヤニヤ顔、賢人に似てるな。」

それを聞いて、顔をしかめる由奈。

「げ、マジで?気をつけよ。」

「でもそうか、由奈のことも、あんまり信用できなさそうだな。」

「いや、賢人みたいに、私から厄介なことしたりはしないから、安心してよ。それに、真言と瑠璃の仲が良いのは、恋とか関係無しで、私は良いことだと思ってるから。」

「どういうこと?」

「中学までは、瑠璃の相手は私ぐらいしかいなかったけど、高校に上がってから、真言みたいな友達ができて、瑠璃の心の支えになってくれてるのが嬉しいってこと。」

「あー、そういうことね。まあ、瑠璃が友人であることは、僕としても望むところではあるから、他人にとやかく言われたところで変わるものではないけどね。」

「それはそうだね。けど、賢人がからかったことがきっかけで関係が疎遠になったとかいうことにでもなれば、私が賢人を締め上げてやるから。」

「はは。程々にしといてやれよ。」

そんな、本気か冗談かわからないようなことを言っていると、予鈴が鳴った。そろそろ、昼休みの終わりとなりそうだ。

「じゃ、瑠璃への伝言、テストあるって伝えておいてね。よろしくー。」

「オッケー、わかったよ。」

僕の返事を聞くと、由奈は自分の席に戻っていった。


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