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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

スカイダイビングという娯楽

作者: HORA

俺の仕事は闇金の取り立てであった。新宿辺りでは知られた闇金を運営。従業員も20人以上おり相当に儲かった。貸し付けに時間はそうかからないが取り立てには相当に時間がかかる。そのような面倒な作業は下の人間にやらせれば良かったのだが、俺はその取り立てという時間のかかる面倒な仕事が好きなのであった。俺はそんなに頭が良くないので取り立てでは口よりも先に手がでる。客は暴行だ!違法だ!犯罪だ!と騒ぐのだが、そのような犯罪の巣窟(そうくつ)にのこのこ足を踏み入れてきたのだから巻き込まれるのは当然であろう。俺よりも馬鹿だ。客がいつ警察に駆け込むのか、いつ逃げるのか、いつ自殺するのか。その前に身柄をどうやって確保し、支払いに回すのか、そのような駆け引きと準備が、常に鬼ごっこの鬼をやっているようで上手くいかない事も含めて存外に楽しめたのだ。


すでに俺は闇金の仕事を引退したのだが、俺が取り立てをしていた期間、40人程が借金を苦に、いや、、取り立てを苦に自殺をしていた。その全ての死が飛び降り自殺であった。これは異常な確率であろう。別の部下の取り立てを苦にする自殺といえば練炭や首吊りが多い。

利子の一部だけを支払うことや、借金を返済せずに逃げる事を()ぶと表現するので、口癖のように()ぶという言葉を会社内、会社外、客の前でも頻繁に用いていたからか、新宿界隈で噂されるようになり、金を貸していない人物からであっても

「俺は飛ばさないで下さいよ~」

とからかわれるようになる。顔が知られることで少しずつ貸し付けそのものや、取り立ての仕事がやり辛くなったことから金貸しから、業界そのものから身を引くことにした。


引退してからは都会から離れ郊外に移住。

「困ったら連絡して来いよ!」

闇金の業務を信頼できる下の人間に任せ、7~8年程経つが一度も連絡は無い。風の噂だと警察のガサ入れが入ったとかなんとか、、、それでも連絡が無いと言う事はパクられたのだろうか。


そんな訳で俺は悠々自適(ゆうゆうじてき)の生活をしている。DIYで湖畔にロッジを建てたり、高級車でドライブをしてみたり、舟の免許をとってみたり、海外でスキューバダイビングやサーフィンをしてみたり、などなど。お金に物をいわせ若い頃にしなかった事を多数行ってみたもののどれもすぐに飽きてしまった。ゴルフやテニスなどのスポーツに手を出してみたが、体が思うように動かない。運動はうまくいかないことで余計にストレスが溜まってしまいすぐに辞めてしまった。引退が早かったせいかまだ還暦前。人生はまだまだ長いので何か長続きする趣味を探し当てたかった。


郊外に移住してから7~8年と随分経ってからではあるが、車で30分程のところにスカイダイビングができる施設がある事に気が付いた。旅行先などは日本中・世界中を随分調べたはずであったが近所にある施設でそのような体験ができるとは盲点であった。さっそく電話で予約し週末に飛ぶことができるよう取り付けた。

そして、その当日。新しい体験ができる事にワクワクしながら教材ビデオを見て、空中姿勢や、器具の使い方や名称などを教わる。教官と呼ばれる人物と一緒に飛ぶので正直こちら側はド素人でも構わない。教官がふと【これから飛ぶ】という言葉を発した瞬間に、闇金の取り立てをしていた時分の記憶が思い出され、そして俺が好きだった言葉に笑いがこみ上げてきた。


スカイダイビングはヘリコプターで上空へ上がると思っていたのだが、この施設では飛行機であるらしい。さっそく飛行機で上空4000mまで上がり、ドアを開けて飛ぶ準備に入る。教官は俺の背中側にピッタリとくっつく形にハーネスで固定されている。飛行機から飛び出した後の予定としては1分程のフリーフォールで3000m程の落下を味わってから、上空1000mでパラシュートを開き5分程かけて地上に降り立つそうだ。教官がカウントダウンを始める。

「スリィーー!!ツーーーー!!ワ「ちょ、ちょっと待」ーーン!」

教官に押される形で2人は中空へ身を放り出す。


飛び出す瞬間に俺は教官に待って欲しいと告げた。教官からすれば客が恐怖で躊躇(ちゅうちょ)する聞きなれた言葉であろうが、バンジージャンプとは違って飛行機は進み続けているので着地したいポイントがある以上待てないのだろう。なのでそのままに飛んだのだ。俺は怖かったから待ってくれ、、、と発した訳では無い。


教官が ワーーン! と言い、飛行機の外に体が出掛けた刹那(せつな)。飛行機の羽や胴体に人間が数十人もへばりついていたのだ。そして俺のダイブと同時にその数十人の人間も落下する。その数十人もの人間はパラシュートを背負っていない。あまりにも生々しくもリアルな光景に壮大なドッキリであると思ったぐらいだ。スカイダイビングの本来の怖さはそれらに吹き飛ばされてしまった。




俺はそれから週に2~3回、その施設でスカイダイビングを行なっている。今では単独でのスカイダイビングも可能となった。一緒に飛んでくれるそいつらは俺が闇金時代に追い込みをかけて自殺したやつら。数十回に及ぶスカイダイビングで全員の顔を思い出し、更には憶えることができた。飛び降り自殺に追い込んだ人数は40人程と思っていたが、数えてみたら62人もいた。そいつらの表情は様々。飛び降りた瞬間から目を(つむ)っているやつら。気絶しているのか、恐怖で目が開かないのかは分からない。他にも恐怖で顔がこれでもかと(ゆが)んでいるやつ。泳ぐように手足をバタバタさせているやつ。脚から落ちるやつ。頭から落ちるやつ。できるだけ追い込みの過程を思い出しながらそれらの表情や動きを特等席で楽しむ。上空1000mで俺だけがパラシュートを開くと、そいつらは速度を落とさずに遥か下方へ落ちていく。はっきりとは確認できないが地面には衝突…とならず、ふっと()き消えるようだった。


俺はある検証のために隣県の自殺の名所である崖を見渡せる場所に来ている。自殺をしにきた者か、一人で旅行している者を探す。そして目星をつけてその跡をつける。その背中を押す。


週末にスカイダイビングを行なう。







いた


63人目


ようやく俺は生涯楽しめる趣味を見つけた。

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