II-20 会議
用務員室で皆と話し合う。お祖父様は今日はお休みだ。“自由に使っていいよ”とルイス様に合鍵を渡して下さっていたので、入室して席につく。
「いや、あのベリーって名前のガチョウは何?」
シリル様のごもっともな疑問に、ルイス様が答える。
「皇太子殿下がカミラ姉様に贈った使い魔だよ。普段はおとなしいし草食で、人を襲ったりもしていない」
「いや悪魔食べてたでしょ?」
「あれは私も初めて見た‥‥いや、もう忘れよう。そう言う約束だ」
「あの女生徒の処遇は?」
「寮で謹慎、その後退学が妥当じゃない? 皇太子殿下もお怒りだったし、9月いっぱいは出ない方がいいかもね‥‥それで、ディア姉様、劇場で何があったか詳しく教えてくれる?」
ルイス殿下に尋ねられて、状況説明する。
「なるほどね‥‥でも、あの劇場に皇太子殿下がいらっしゃるとなぜ知ってたのかな?」
ルイス殿下が呟く。
「昨日の観劇はプライベートだから、そんなに情報は流れてないはずだけど」
殿下の言葉に、シリル様が続ける。
「王宮や公爵家の使用人が主人の予定を漏らすとは考えられないし、学生の協力者でも居たんじゃない?」
学園内でプライベートな話題を出すとしたら‥‥場所は限られているわ。
「中庭のガゼボで話したかもしれません」
私とカミラ様が会話しているのを直接聞いていたのかもと思い、そう告げる。後ろに控えていたメイジーが口を開いた。
「私は姫がプライベートの会話をされる際は周囲にも気を配っていますが‥‥聞き耳をたてている生徒は居なかったと思います」
メイジーに続き、ルディも同意する。
「俺もそうですけど‥‥最近、中庭で観劇の話題が出た時は、会話が聞こえる範囲には誰も居なかったかと」
「カルミア宮での会話や宮殿の情報がこちらまで漏れるとは思えないしなぁ」
今までを思い返してみる。あ、そうだわ! 私はメイジーを振り返った。
「そう言えば、中庭以外でも観劇の話をしていたわね?」
思い出したのか、彼女も頷く。
「用務員室の帰りですね‥‥とすれば、疑わしい警備兵が一名います」
「カミラ姉様に対する嫌がらせか恋慕か‥‥どちらにしても、許さないけど。早急に解決したいから、“影”を使わせて貰えるように頼んでみるよ」
エストリアの皇太子殿下に不敬を働いた事実があったため、捜査は順調に進み、警備兵が一名秘密裏に処理された。男の私物からカミラ様に関する詳細なメモや拘束具等も発見されたらしい。
◇◇◇
報告書を読んだお兄様は、溜息をついた。
「‥‥学園内でリーディに“影”を付けるようにしていて良かった。これって、王女殿下の立場が君に置き換わる可能性も十分にあるからね」
暗い瞳で私を見る。
「‥‥文官辞めて、学園の教師になろうかなぁ」
この表情はいけないわ。慌てて彼の腕を掴む。
「分かりました。私、頑張って単位を取って3年で卒業します。だから、今まで通りお父様の補佐を頑張ってください。ね?」
「‥‥君がそう言うなら」
お兄様の世界は、本当に私中心に回っているのね。周りも混乱するし、未来の宰相候補がいなくなってしまうところだった‥‥危なかったわ。
ちなみにお父様には弟がいるけれど、魔力を持たない女性とご結婚されてカリス領に住まわれており、私達とはあまり交流がない。




