II-17 納得いかない
「なるほど‥‥事情は分かったが、今のところは何もできないな。生徒には、ある程度自由にさせたいと思っているし、カミラも大丈夫と言っていたのだろう? 皇太子殿下もさして問題にしてないようだからね」
用務員室でお祖父様に話を聞いていただいたけれど、反応は薄かった。確かに、ルシファー様もカミラ様も騒いでないわ。でも、予知夢を知っている私は安心できない。
その気持ちを汲んでお兄様が支援して下さる。
「ですが、その女子生徒は年明けにも不敬を働いて反省室送りになったと聞いています。エストリアの皇太子殿下に失礼がある前に、学園側から注意喚起をした方がいいのではないですか?」
けれど、お祖父様の意見は変わらなかった。
「君達の気持ちも理解できるが、エストリアに嫁いだら、カミラにはもっと辛い場面が待っているかもしれないだろう? しばらく二人に任せて様子を見てみよう」
今は何を言っても無理そうだから、粘るよりも一旦引いた方が良さそうだ。
「わかりました。でも規則違反や不敬を働いていたら、その都度注意してもいいですよね?」
私が尋ねると、それはもちろん、と頷いて下さった。
「さあ、甘いものでも食べなさい。カミラを心配してくれてありがとう」
◇◇◇
「まだ決定的な何かが起きた訳ではないからなぁ」
並んで昇降口へ向かいながら、お兄様が呟く。少し後ろからレオとメイジーが従っており、ルディは馬車を取りに行っている。
「自分が来年退学になりそうだって分かってるから、急いで結婚相手を探しているんだわ」
今年度から法律が改訂され、給付金の支給を受けている生徒は、年度末にその都度査定を受ける事になった。給付額が多い生徒ほど厳しく、生活態度も含め、場合によっては退学処分もありえるそうだ。
「王女殿下の一番近くに居られるのはリーディアだから、メイジーやルディと一緒に気を配ってあげたらいいよ」
「そうね、あと3週間頑張るわ!」
私は気合を込めてお兄様と繋いでいる手を前後に振った。すれ違った警備兵が立ち止まって敬礼する。
「今週末は観劇なんだよね?」
「ええ、カミラ様達とダブルデートの予定よ。楽しみだわ」
今回はお兄様とルシファー様が一緒なので、変装はしない方向で考えている。
「そう言えば、僕も前髪を伸ばすか色付きの眼鏡をかけたら他の人にバレないんじゃないかな?」
「風が吹いたり眼鏡が外れるのが心配だけど、あらかじめ何かで固定していたら大丈夫かしら?」
「じゃあ、今度改めて二人で出かける時にやってみよう」
「そうね!‥‥あ、今日は様子を見に来て下さってありがとう」
改めてお礼を言ったら、お兄様は笑顔で頷いた。
「うん、リーディアがそこまで気にするなら、僕も一度確認しておきたかったからね」
続いて後ろからレオとメイジーの声がする。
「なかなかのアピール具合でしたね。外見は可愛らしい少女っぽいけど、目が猛禽類みたいに獲物を狙ってるんだよなぁ」
「魔力があってこの学園に入学できたなら勉学に励めばいいのに、そんなに男がいいのか‥‥理解できないな」
「俺も分からんが、俺達の時にも何人かそんな生徒が居たじゃない?」
「そうかもな」
そんな話をしながら帰路に着いた。




