II-14 閑話
翌朝、出発まで時間があったので、談話室でルイス様と三人でお茶をした。
「そう言えば、ディア姉様にも王家の“影”を付けようと思うんだけど、どうかな?」
殿下のご提案に、お兄様は首を横に振る。
「リーディアは僕が守るし、契りを交わした騎士も三名いるから、大丈夫だよ」
「そうだけど‥‥じゃあ、学園にいる間だけでもどうかな? ディランとレオはほぼ居ないし、座学の際はメイジーとルディも席を外してるから、心配じゃない?」
それを聞いたお兄様は、考えるように私を見た。“お兄様にお任せします”と言う意味で、キリッとした顔をする。
「学園の警備兵も居るし大丈夫だと思うけど、そこまで心配して頂けるなら、お願いしようかな?」
「うん、分かった。ソード大公に言っておくね。あ、“影”をまとめているのは、国王陛下じゃなくてお祖父様なんだよ」
そうだったのね、だからあんなに自由に使っているのかしら?
ルイス様がため息をつく。
「それと、今朝報告が来たんだ‥‥数日前からモンテネール聖神国で、恒例の“平和のための宗教者会議”が開催されてるでしょ? その会議後の会食の場で、我が国の神殿長が失言をしたそうだ」
「失言って、どんなことを?」
お兄様の問いに、ルイス様が再び息を吐く。
「会議の趣旨は、世界で協力して平和を目指しましょうなんだけど、水の中央神殿長が“アルカナだけは精霊王のご加護が強いから、何があっても大丈夫”と自慢をしてしまい、不評を買ったらしい。総長がすぐフォローしたみたいだけど、宗教問題はデリケートだからねぇ」
「去年は精霊王の試練があったし、その後も使者様が滞在されているから、自慢したかったんだろうね。言うべきじゃなかったとは思うけど」
お兄様が意見を述べ、それを受けてルイス様が頷いた。
「失言を笑って許してくれる方ばかりじゃないから。しばらくは何か言われそうだよね」
私の膝の上には、青い毛並みの猫が乗っている。これは、私がカミラ様の部屋でベリーと遊んでいるのを、たまたま使者様がご覧になり、『乙女は動物がお好きなのですか?』と尋ねられたので肯定したら、使者様が猫に変化するようになったのだ。
それからは、気分によって猫になったり人間になったりされている。
まさかとは思うけれど、使者様が悪魔に嫉妬する事もあるのかしらと思ってしまった。
邸に戻ってからは、神学の教科書を復習したり、メイジーやルディと鍛錬したりして過ごした。最近は家令から邸の運営の仕方も学び始めている。
「ペンタクルス領の海も良かったけれど、自分のお家のふかふかのベッドも最高ね!」
夜、独り言を言ってベッドに寝転んでいたら、お兄様も寝室に姿を現した。今日は残業で遅くなるとの事だったので、夕食は別々だった。
「リーディア、元気だね」
微笑んでベッドの端へ腰掛けている。
「今日はガーデニングを頑張ったから充実しているの」
起き上がり、お兄様の隣に座った。
「肌が赤くなってるね‥‥花壇も見たよ。綺麗になってたね」
「見て下さったのね! ディラン様のそう言うところ、大好き」
私は彼に抱きついた。お仕事で疲れているのに、私にも気を配ってくれるのはとても嬉しい。
「赤くて痛そうだけど、大丈夫?」
お兄様は私の肩をそっと撫でている。
「メイジーがすぐに冷やしてくれたから、見た目ほどじゃないわ」
そう‥‥と言って、首や肩に口づけられる。あら? お疲れではないのかしら。
「リーディアに癒されたいな」
そう囁かれ、唇にもキスされた。私が断るはずもなく、承諾の意味を込めて彼の首に腕を回した。




