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カリス公爵令嬢は幸せになりたい  作者: 成海さえ
第二部 魔法学園二年生(15〜16歳)
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II-12 船上パーティー2

 代わってお兄様は私が支えながら、指示に従う。人々の叫び声や足音が船内に響いていた。


 私達は出口ではなく上甲板に案内され、緊急用に設置されている小舟の前に来ると、兵士が剣を抜いてルイス様に突き付けた。


「ほら、これに乗るんだ」


 給仕だった男も、船に被せてある覆いを取りながら脅す。物陰から仲間らしき男達が現れて合流した。


「お姫さん達、大人しく付いて来れば手荒な真似はしねぇよ。大事な人質だからな!」


 ルイス様は頷いて船に乗り込む。私達も無言で従った。


「下ろせ!」


 それを合図に小舟が少しずつ海面に近づいて、やがて海に浮かんだ。縄梯子で降りた男達も合流し、少し離れた沖に停泊していた船に監禁された。反抗しないのは、犯人の目的と主犯を特定するためだ。


「よし、上手くいったな‥‥身代金が取れたら解放してやるから、それまで大人しくしとくんだな、お姫様?」


 給仕だった男が笑う。私達は腕を後ろに縛られ、船室の一つに集められていた。壁には海賊旗のようなものが掲げられている。


「王女とカリス公女は魔法が使えるらしいですが、手を縛るだけで大丈夫ですか?」


 兵士が問いかけ、給仕は俯いているお兄様とルイス様を一瞥して答えた。


「お姫様達は怖くて何もできねぇよ。海賊に会ったのも初めてだろうしな!」

 二人で大笑いしている。



 やがて現れたリーダーらしき中年のいかつい男は、指輪をいくつも嵌めた指をルイス様に伸ばした。二人の顔を隠していたカクテルハットを取り去ってしまう。お兄様は更に顔を伏せた。


「これが“アルカナの金”か‥‥では、こちらは“銀”だな。どちらも売れば高値になりそうだが‥‥王族は足がつきやすいからなぁ!」

「では船長、この侍女達はどうです? 死んだ事にして売り飛ばすのは?」

「そうだな‥‥」


 船長と呼ばれた男は、ルイス様に伸ばしていた手をお兄様の隣に居た私に移し、顎に手をかけ上向かせた。顔が近い。


「ふん、瞳は緑か‥‥造りも整ってるし、売れそうだな?」

「でしょう?‥‥俺達で楽しんでから売りましょうよ!」


 それを聞いた直後、ずっと顔を伏せて動かなかったお兄様の手が、船長の腕を掴み上げていた。拘束していた縄はいつの間にか全員解かれている。


「ルディ」


 同時にルイス様の声がして、はいと答えたルディが近くの船員を倒し、剣を奪ってもう一人も動けなくする。外でも呻き声と何かがぶつかる音が聞こえていた。打ち合わせ通り王家専用の“影”が、のろしも上げてくれるはずだ。


 ぎゃあぁ、と言う断末魔のような叫び声がした。船長を見ると、彼の腕はお兄様が掴んでいる部分から皮膚が紫色になり、範囲を広げながら茶色になり、血のような水ぶくれを伴って灰色に変わっていった。


「お‥‥お嬢様!」


 私は慌ててお兄様に抱きついて止めた。打ち合わせでは、首謀者は生きて捕える予定になっている。


「お嬢様、落ち着いてください。もう大丈夫ですから、その手を離しましょうか?」


 ゆっくり優しく話しかける。彼の手首をそっと持った。


「ほら、手を開いて?」


 お兄様の手が離れ、ルディがすぐに男を拘束する。


「‥‥“水は生命(いのち)、生命を育む父なる海”」


 お兄様の呟きに、斜め後ろに座っていたルイス様が目を見開いた。横にはカミラ様もいらっしゃる。


「ちょっとまってディラン! それって水の古代魔法の詠唱でしょ‥‥何してるの? どこに使うの?」


 肩に手をかけて話しかけた殿下をお兄様が振り返り“僕はこの船を壊す”と言った。王族お二人の顔色が青くなる。


「“水は恵み、渇いた世界を潤す雨“」


「ルディ! 海賊が近くに居るとディランを刺激するだけだから、早く連れて行って。それと、至急撤退すると皆に伝えて」


 ルイス様がそう言って立ち上がり、扉を開けて外にいる人物に話しかける。


「撤退する時に、ここの海賊も運んでね。船内に残ってる人がいないかも確認して」

「かしこまりました」


「"水はみふゆ、姿を変え眠りを促す”」


 ルイス様が私を振り返る。

「ディア姉様、皆の避難が間に合わない。姉様だったら何しても怒らないだろうから、ディランの暴走を止めて! どんな方法でもいい」


 カミラ様は、紫色のブレスレットに手をかけてこちらを見ていた。私はお兄様の正面に回って顔を覗き込む。


「“水は怒り、邪悪なる者を瞬刻に薙ぎ伏す“」


 青い瞳が微かに輝いているけれど、私を映してはいない。止めるように言っても反応はなかった。背後に回ったルイス様が電流を纏った手刀を構える。


「"それら全てを総べる者、水の精霊王の御力を借り、”」


 だめだわもう詠唱が終わってしまう。早く止めないと!‥‥追い詰められた私はお兄様の顔を両手で挟み、精霊王に祈りながらその詠唱を唱える口を自分の口で塞いだ。舌の動きも止めたかったので中に入れる。

 時間が止まったように長く感じた。


「‥‥‥‥」


 大人しくなったので顔を離す。お兄様が、戸惑ったように私を見ていた。

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