II-11 船上パーティー1
楽しい時間が過ぎるのはとても早く、いつの間にか船上パーティー当日を迎えていた。
ドレスを着用した私とカミラ様は、頭にカクテルハットを被っている。これには目の部分を覆うレースがついていて、お兄様の特別な瞳を隠す役割を果たしている。
髪は二人とも巻き髪で、私は後ろでまとめ、カミラ様はハーフアップにしていた。
この日のために、作戦会議以降は私もカミラ様も外出時はヒールの高い靴、表立った護衛はレオとメイジーだけにとどめた。
海の上なので海軍と連携を取っており、指揮官とも何度か打ち合わせを済ませている。
使者様はお留守番するそうなので、私はカミラ様、ルイス様と共に会場へ向かった。
「姫、参りましょう」
メイジーの腕に手をかけて会場へ入る。レオとどちらがエスコートするか揉めたけれど、夫のいる私にはメイジーが妥当だろうと言う事になった。カミラ様はルイス様と一緒に会場へ入っている。
会場内ではシリル様と護衛騎士のジーン様、そしてルイス様の周りにご令嬢達が集まっていた。私とカミラ様に挨拶をして下さる方もいたけれど、今夜の主役は一目瞭然だ。
ダンスタイムが始まる前に私の気分が悪くなり、カミラ様と別室へ、ルイス様も頃合いを見計らって退場する予定になっているけれど、あんなに囲まれていて大丈夫かしら?
「リーディア、そろそろいいんじゃない?」
カミラ様の言葉を合図に、私は胸を押さえてよろめいた。
「姫、ご気分が悪いのですか!?」
「どうしたの? リーディア!」
「すみません、会場の責任者を呼んで下さい」
大げさにみんなが騒いで、私達は会場の責任者から特別室に案内された。ここは他の客室よりも広く、寝室が別で浴室も併設されている。
中には既にドレス姿のお兄様と、侍女姿のルディが待機していた。
「わあ、姫ちゃん、見て下さいよ。俺の巻き毛がこんな所で役に立つとは!」
「そうね、持って来ていて良かったわ」
お兄様は髪が短いので、レオの髪を加工したウイッグを装着している。それにしても、お兄様が美人すぎて! 女神様みたいだわ。
「姫、準備しましょうか」
メイジーに促され、別室でカミラ様と共に侍女の衣装に着替える。目立たないように、髪は茶髪のウイッグを被る。
その変装が終わった頃に、ルイス殿下も合流してドレスに着替えた。
しばらくして大きな爆発音が響き、停泊していた船が前後左右に大きく揺れた。私はドレス姿のお兄様にしがみつく。
「失礼します!」
部屋のドアがノックされ、メイジーが扉を開くと、給仕らしい男性と兵士が慌てた様子で立っていた。
「船倉で火災が発生したようです! 優先してご案内いたしますので、すぐ避難して下さい」
「分かりました」
メイジーは気分が悪そうな演技のお兄様を支え、レオはルイス様の側につき、侍女の私達も一緒に部屋を出ようとする。
「お待ち下さい」
兵士がメイジーを呼び止めた。
「騎士様お二人は、水の精霊魔法が得意だと伺っております。どうか、火災の鎮火にご助力頂けませんでしょうか? 王女殿下とカリス小公爵夫人は、私達が責任を持って安全な場所まで誘導いたします」
「‥‥殿下、いかが致しましょう?」
レオがルイス様に尋ねる。
「行っておあげなさい」
王女殿下の許可を得て、二人の護衛騎士は側を離れ火災現場へ向かった。




