II-10 プライベートビーチ
お兄様が『海が見たい』と言ったので、夜に二人でビーチへ出た。護衛の三人もいたけれど、レオが
「俺たちは邸の入り口に待機してますね。何かあれば、狼煙を上げるなりして知らせて下さい」
と言ってみんなで邸に引き返していた。気を遣ってくれたのね。
お兄様と手を繋いで砂浜を歩く。夜の浜辺には松明が焚かれており、月や星空も含めて適度な明かりがあった。
「ディラン様‥‥せっかく休みを取って来たのに、なかなか休めないわね」
心労が溜まって人間のこと嫌いになってないかしら? 少し心配だわ。
「うん、でも君と一緒に過ごせるならそれでいいよ」
彼の言葉に隣を見上げたら、青い瞳が見つめていたので目を伏せる。
「えっと、年末年始はまた二人でのんびりしましょうね! それがいいわ」
お兄様は立ち止まり、私を抱きしめた。
「リーディア‥‥僕の目をあまり見ないね? 何かあった?」
私は彼の背中に腕をまわし、ぎゅっと力を入れた。
「何があったの? 話してごらん」
優しく問いかけられ、顔を上げるとお兄様が心配そうに私を見ていたので、座って話すわと頷いた。
頭を整理しながらガゼボに向かい、水の精霊王と出会ったこと、お兄様が転生すること、国が騒がしくなると言われたことまでを告げた。
「まずは、精霊王と言えどリーディアを泣かせたのは許せないな」
お兄様の発言に驚いて彼の口を手で塞ぐ。
「しーっ」
自分の唇に人差し指をくっ付けて注意すると、彼は少し笑って頷いた。
「自分の瞳がなぜこうなのかは、ずっと疑問に思ってたから、理由が分かってすっきりしたかな」
意外と冷静なのね? かと言ってこの件にショックを受けて慌てたり絶望するお兄様も、あんまり想像できないわ。でも、軽く流した感じにしている彼の胸中は、とても複雑なはずだ。
腕を広げられたので、その膝の上に横向きに座る。ウエストに腕がまわったので、身体を預けた。
「転生って言われても‥‥亡くなった後の事なんて、今から考えられないしなぁ。とりあえず毎日を生きるのと君を愛するのに精一杯だよ」
あら、告白されたわ。顔を上げて目を閉じると、口付けされた。
「私も、ずっとお兄様の側にいるわ」
「うん、よろしくね。あと名前で呼んでね?」
少し笑って二人で海を眺める。
「“この国が騒がしくなる”のは、海賊のことだと思う?」
尋ねると、しばらくして答えがあった。
「今の時点では分からないな。海賊が悪さをする程度で精霊王から警告があるとは思えないから」
「ルイス様にもお伝えした方がいいかしら?」
「そうだね、お許しが出ているなら伝えよう」
翌日、ルイス様とカミラ様に警告があった部分だけをお話しした。
「うん、分かったよ。十分注意しよう。パーティー当日は“影”にも同行して貰うから‥‥ディア姉様の前に顕現されたって事は、姉様に関わりがあるのかもしれない。他にも何かあれば、すぐに情報を共有しよう」
隣のカミラ様も頷いている。とりあえずは気を配りながら前に進むしかないわね。




