II-9 作戦会議
この件はディランに知らせてもいいよ、とのお言葉を頂いたけれど、どうしたものかしら?
部屋に戻って食事と入浴を済ませ、今日は早めに寝ましょうとベッドへ入った。
「リーディア、何か悩んでるみたいだけれど、大丈夫?」
隣のカミラ様から声がかかる。やっぱり私は隠し事ができないのね。
「お兄様の妻として、これからどう支えていったらいいのか考えていました」
「そうね、私もエストリアに嫁ぐから、あなたと同じような悩みを抱えているわ」
カミラ様が仰る。
「大切なのは、随時相談しながら夫婦で同じ方を向いて歩いて行く事ではないかしら。それに、あまり隠し事はしない方がいいと思うわ。特にあなたは顔に出やすいから」
「そうですね‥‥」
溜息が出てしまう。黙っていて誤解を生むくらいなら、話してみようかな‥‥
そうは思ったものの、数日後に到着したお兄様のお顔を見ると、なかなか伝えられずにいた。部屋割りは変わって、私とお兄様が同室、カミラ様とルイス様はそれぞれ一人部屋となっている。
船上パーティーはまだ先なので、それまでのんびり楽しもうと話していたところだった。
「ごめん、ちょっと相談したい事があるから、談話室に集まってくれる?」
シリル様に集合をかけられ、私達は指定された部屋に向かった。
「とある筋からの情報で、海賊がカミラ殿下とリーディア嬢を狙っているらしい。船上パーティーで仕掛ける計画みたいだから、申し訳ないけどお二人は欠席して貰えないかな?」
「その情報って、確かなの?」
王太子殿下の問いに、シリル様は頷いた。殿下は、うーんと考えるように首を傾げる。そして、名案が浮かんだのか表情を明るくした。
「場所が船上パーティー限定ならさ、この際“アルカナの金と銀”が囮になって、悪い奴を捕まえるってどう?」
それにはシリル様が反対した。
「いや、お二人を危険に晒す訳にはいかない」
その言葉を受け、ルイス様は笑顔で考えを促すように右手の人差し指を左右に振っている。
「アルカナの金と銀って、もしかして‥‥」
隣のお兄様が苦笑する。ん、どう言うことかしら? カミラ様を見ると、同じく理解できたのか呆れたように目が遠くを眺めていた。
ルイス様は自信を持って発言する。
「そう! “アルカナの金と銀”は、もう一組いるよね?‥‥‥‥私とディランがドレスを着て囮になるんだよ」
お兄様の女装は正直とても興味があるけれど、それって可能なのかしら? 殿下は続ける。
「問題は、会場に集まるご令嬢達と敵の目をどうするかだけど、最初はお姉様達に普通に参加して頂いて、途中で気分が悪くなった一人と、付き添いでもう一人が一緒に別室へさがり、そこで入れ替わるとかどうかな?」
殿下の提案を頭の中で検討したらしいシリル様が受ける。
「‥‥そうだな、客船の特別室を使えばできない事はない」
「じゃあ‥‥」
「ちょっと待ちなさい」
カミラ様がルイス様の言葉を遮った。
「カリス卿とリーディアはどうなの? この案で大丈夫かしら?」
私の反応を見ていたお兄様が、少し間を置いて答える。
「ええ、王女殿下とリーディアが欠席した場合、船内でターゲットを変えて犯行に及ぶ可能性がありますし、例え今回の犯罪が中止になっても、また次の被害者を生むだけなので、方法がどうあれ実行可能で捕らえられるなら、その方が良いかと」
「私も、皆様がそれで良ければ協力します」
それから計画の具体案は進み、とりあえず私とカミラ様用にヒールの高い靴、当日用に爪先まで隠れるドレスを二着ずつ用意することになった。
精霊王のお言葉にあった“この国が騒がしくなる”って、この件だったのだろうか?
やっぱりお兄様に相談してみよう。




