II-7 市場見学
翌日は、街の見学に連れて行っていただいた。
そのままの格好だと目立つからと、あらかじめ変装を勧められており、観劇の際にしていた商家の娘風の衣装に着替えた。
私とカミラ様、メイジーは茶色のウイッグを付けて服装も変えたけれど、ルディは元々焦茶の髪色とオレンジの瞳だったので、服以外はほぼそのままの姿だった。
「おはよう‥‥うん、変装も完璧だね。今日は何でも揃っているペンタクルスの市場に案内するからね!」
色のついた眼鏡をかけて帽子を被ったシリル様を先頭に、途中までは馬車で向かい、それからは歩いて市場へ入った。
カミラ様の隣にはメイジー、私の横にはルディが付いている。使者様は所用があるとかでお留守だ。
市場は朝から混んでおり、髪や肌の色を見れば、さまざまな土地から人が訪れているのが分かる。
「何か欲しいものや食べたいものがあれば、言ってね。俺が買ってあげるから」
そう言われても目移りして決められず、キョロキョロしていると人にぶつかってしまった。
「あっ、ごめんなさい」
「大丈夫?」
受け止めてくれた方は、背の高い男性だった。前髪で目が隠れており、髪色もあってかゲーム内でのお兄様を思い出した。
「ありがとうございます。お嬢様、大丈夫ですか?」
ルディがすぐに私を引き取ってお礼を言った。
「ええ、平気よ‥‥ありがとうございました」
その彼にお礼を伝えると、微笑んで立ち去って行く。
「銀髪だから、カリス領の商人ですかね? それにしても、久しぶりに来ると、市場はやっぱり見応えあるなぁ」
私の肩から手を離し、ルディは懐かしそうに見渡した。色々思い出があるのねと思い、彼と話しながら歩く。
「俺の実家は領地を持たないので、小さな農園を運営しているんです。収穫された果物を市場でも売っていました。子供の頃は俺も手伝ってたんですよ」
「そうなの、ルディのご実家のフルーツ、食べてみたいわ」
「じゃあ、今度送って貰いますね。俺が公爵家で雇用されてるって、両親ともまだ半信半疑らしいので」
「では、パーティーが終わったら何日か休暇を取って、その制服のまま実家に寄るといいわ」
「もうじきレオさんも来るし、そうさせて頂こうかな?」
お昼はシリル様お勧めの屋台でいくつか食べ物を購入して、その一画に設けられた飲食スペースで食事を済ませた。このような場所でのお食事が初めてだったカミラ様は、最初は戸惑っていらしたけれど、慣れると楽しそうにされていた。
「どう? この市場。一日ではまわりきれないから、見たいものがあれば教えてね」
シリル様にそう言われて、カミラ様と私は服飾品のお店に案内して貰い、王都で待っている侍女達へお土産と、自分にもカミラ様とお揃いのブローチを購入した。代金は全てシリル様持ちだった。
それから邸に戻り、カミラ様と二人でおしゃべりしていると、使者様に声をかけられた。
「乙女、わたくしと二人で散歩しませんか?」
「リーディア、行ってらっしゃいな」
夕食までは時間があるし、今日は使者様とあまりお話しできなかったものね。
私はルディとメイジーにここに居るよう伝えて、使者様と二人でプライベートビーチへ向かった。
「使者様は、今日は何をされていたのですか?」
廊下を歩きながら話しかける。使者様は穏やかに微笑んだ。
「わたくしが動く理由は、ひとつしかありませんよ、乙女」
ん? どう言う事だろう。腕を出されたので、大人しく手をかけてエスコートしていただく。
使者様は自己主張したりがあまり無いので、このようなお誘いをされるのは珍しい。何か、話したい事でもあるのかしら?
まあ、ビーチに出てみれば分かるわね。




