II-6 ベリー
夕食はシリル様のご両親に招待していただき、楽しく過ごした。
公爵閣下は元より、公爵夫人も海軍に関わっていらっしゃるそうで、優雅さと強さを併せ持つとても魅力的な方だった。
部屋に戻り、邸付きの侍女に手伝って貰い着替えや入浴を済ませ、メイジーとルディは自分達の部屋に戻って行った。この邸には警備兵がいるので、私の騎士達も基本的に夜は自室で過ごしている。
「あのね、リーディア。見せたいものがあるの」
ソファーに座っていたカミラ様はそうおっしゃって、いつも身に付けている紫色のもふもふしたブレスレットを外した。
「“戻れ”」
命じた途端、それは太めのガチョウに変化する。でも普通のガチョウと違うのは、尻尾がウサギのそれになっていて、首の周りにはたてがみのように紫色のもふもふが取り巻いていた。
「まあ、これはどのような魔法なのですか?」
驚いて尋ねたら、カミラ様は種明かしをしてくださった。
「これはルシファー様から贈られた使い魔で、名前はベリー。変化もできるし、私とルシファー様の命令を聞くのよ」
私が頭を撫でてもじっとしている。悪魔と言っても、人を襲うものからベルのような上級魔族まで、さまざまなのね。
「可愛らしいですね。いつも身に付けておられるブレスレットに、このような秘密があったなんて」
「ええ、この子のことを、ずっとあなたに話したかったの‥‥あ、ルイスだけはもう知ってるわ。でも、他の人には内緒にしてね」
「かしこまりました、話して下さってありがとうございます。こんな可愛い子と知り合いになれて嬉しいです」
ベリーは目を閉じて動かない。ルシファー様がただのペットを贈るとは思えないから、ベリーはカミラ様の護衛も兼ねているのかしら? このような贈り物をするくらいカミラ様を大切に思っていらっしゃるのね。
「あ、そう言えば、9月にルシファー様が学園に留学されるとか」
「そうなの! 待ち遠しいわ」
カミラ様が嬉しそうに微笑む。これは、恋物語の予感がするわ‥‥私はソファーから立ち上がった。カミラ様に同意をいただいてから、少し離れた廊下に控えている警備兵に声を掛けて、スイーツと飲み物をお願いした。
その日は夜遅くまで、お兄様の好きなところやルシファー様の素敵なところ、最近観た歌劇の良かったところ等を語り明かした。
「お兄様は、私にとって完璧なのです。今の邸に引っ越してからは一緒に寝ているのですが、朝の寝癖すら可愛いくて」
「何をしても好きなのね」
「そうなんです! どうしてだろうって考えたら、お兄様は私を不安な気持ちにさせないなぁって。何かあれば、必ずフォローして下さるので」
「それは大事よね。ルシファー様とは政略結婚だけれど、あの方も愛情表現が分かりやすいわ」
「甘言だけではなく、どんな態度を取っているかも信頼に影響しますよね」
「そうね、言葉と態度が違っている人って、やはり分かってしまうのよ」
話していくうちに、ルシファー様との初恋エピソードを聞いた私は、歓喜のあまりベリーをぎゅっと抱きしめてしまった。ベリーは眠っているのかなすがままだった。
「そうなのですか、ルシファー様の想いが伝わって‥‥私、もう幸せで胸がいっぱいです」
途中でドアをノックする音がして、私服のメイジーが失礼しますと顔を出した。部屋の明かりがついたままになっていたので、様子を見に来たらしい。
テーブルの上に置かれたケーキスタンドを見て可笑しそうに少し笑う。ベリーの存在も視線で確認したらしいけれど、何も言わなかった。
「私はリーディア様の体型管理もしているのですが‥‥今夜は見なかった事にしましょう」
「さすが、私の騎士は話が分かるわ」
程々にして下さいね、と言い残して去って行く。ベリーもずっと目を閉じていたので、先にベッドに運んだ。
とても楽しい夜だった。




