II-5 ペンタクルス領へ
「リーディア、久しぶりね」
夏休みに入ってからは、カミラ様と毎日会う事もなくなり寂しく思っていた。金の巻き髪とペリドットの瞳が美しい王女殿下に微笑みかけられると嬉しくて私も笑顔になる。
「はい、カミラ様もお元気そうで何よりです」
「ええ、暑いけれどね」
今日はペンタクルス領へ出発する日だ。私とカミラ様、使者様は先に向かい、現在“悪魔の深淵”で合宿中の王太子殿下は、お兄様と共に後から合流する予定になっている。
帰りの事も考えて、馬車は2台で出発した。
途中の街で一泊した後、ペンタクルス領の公爵邸に着いたのは翌日のお昼だった。
途中から景色が開けて海が見えた時は、カミラ様と二人で喜んでしまった。
「ペンタクルス領へようこそ、待ってたよ!」
公爵子息のシリル様が玄関で出迎えてくださる。宿泊先はこちらではなく、海の側にある彼の私邸らしい。
「今から案内するね。プライベートビーチもあるから楽しめると思うよ」
馬に乗ったシリル様の先導で、私達はその邸を目指す。途中で港の近くを通ると大きな船が停泊しており、あれがパーティー会場だよと説明された。
シリル様の私邸は高級宿泊施設を模しており、全室から海を眺められるように設計されていた。取引先のお客様を招いた際のゲストハウスとしても使用しているそうだ。
私とカミラ様は同室だけれど、お兄様やルイス様が到着されたら、また部屋割りを変えるらしい。
「淑女同士で、たまにはお泊まり会をしてもいいんじゃないかって思ってさ」
プライベートビーチに案内しながら、シリル様がお話しになる。ちなみに使者様は、どこか行きたい所があるようで、お一人でふらりと去ってしまわれた。
「ここの厨房は、姫君達の滞在中は早朝から深夜まで営業してるから、食事はいつでも注文してくれていいよ。ビーチで食べたかったら、そこまで運ぶからね」
さすが、気配りも完璧ね‥‥感心しながら、建物を出て白い砂浜を踏みしめる。
そこまで広くはないけれど、個人で楽しむには十分な広さのビーチだった。周りから見えないように、木も植えてある。
そこに、砂で作られたガゼボが建っていた。柱には細かい彫刻が施してあって、見ているだけで気分が上向くようだ。
「どう、これ‥‥姫君達の為に、俺が作ってみたんだ。日除けにもなるし、いいでしょ?」
「遊び心もあって素敵ですね、ここでずっと海を眺めていたくなります」
「でしょでしょ? ウエルカムドリンクと軽食を頼んであるから、召し上がれ」
ガゼボの中にはテーブルと海が見える位置に長椅子も設置してあり、私とカミラ様は勧められるままに席についた。シリル様が感慨深げに呟く。
「いやぁ、アルカナの金と銀を独り占めなんて‥‥俺も今夜はこの邸に泊まろうかな‥‥いや、ディランが怒るか。海の近くであいつを怒らせるのはやめとこう。エストリアの皇太子殿下も怖いしな」
「すみません、アルカナの金と銀って何ですか?」
ルディの問いに、シリル様が答える。
「この国のデビュタントは、純白のドレスを着た貴族令嬢がシャペロンと呼ばれる保護者に付き添われて、王太后陛下にご挨拶するしきたりなんだけど、
カリス公爵夫人に付き添われたカミラ姫とリーディア姫二人が並んでいる姿をご覧になって、王太后陛下が“まるでアルカナの金と銀ね”とお褒めの言葉をかけて下さった事に由来するよ。
広まったのはそれからだけど、囁かれていたのはもっと前からかな」
「そうなんですね! お二人のデビュタント姿、綺麗だったでしょうねぇ。俺も見たかったです」
「いや、俺も見てないからね?‥‥そう言えば、その会場に忍び込んだ下級官吏がいて、結局捕まったとか」
「悪い事はできないですね」
「だよねぇ」
カミラ様と飲み物をいただきながら、二人の話に耳を傾ける。明日は街の市場に案内して下さるそう。楽しみですね、とカミラ様と微笑み合った。
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