II-4 夏休みの日常
夏は雑草が伸びるのが早い。
以前、メイジーに雑草が小さいうちに指で摘んで根ごと凍らせる方法を教えてもらい、以降は自分で駆除をしていた。
邸で自分用に割り当てられた花壇の手入れを終えて、汗を拭く。今日はここまでね。
「姫、沐浴なさいますか?」
隣で手伝ってくれていたメイジーが立ち上がる。汗が少ないのは、氷魔法で周囲の気温を少し下げてくれていたからだ。
「私はまだジョンに聞きたい事があるから、もう少しここに居るわ。メイジーは先に行ってさっぱりして来たら?」
主人と従業員用の浴室は別なので、入る順番を気にする事もない。
「そう言う訳にはまいりません。用事がおありでしたら私が伺っておきますので、姫はもう部屋にお戻りください」
「うーん、じゃあしょうがないわね。用事をさっさと済ませて一緒に入る?」
腰に手をあて、もちろん冗談で言ってみた。遠くで蝉が鳴いている。
「ええ、ぜひ。お背中お流しします」
メイジーがキラキラした美しい笑顔で答えたので、困ってしまっていると、ちょうど通りかかったルディが苦笑して言った。
「女性同士っていいなぁ。そう言う冗談も言えますもんね! 俺が同じ答えをお嬢様にした日には、レオさんのグーパンの前に若から水責めにされそうです」
「ルディはアウトだな」
メイジーも同意している。騎士の制服も平時は半袖になっていて、ルディが自分の腕を差し出した。
「ほら、想像しただけで鳥肌ですよ」
鍛えているのが分かる、きれいな筋肉と筋が通っている腕を見て、羨ましくなった。
「私ももっと筋肉つけようかしら?」
「お嬢様は社交界では清楚系のイメージなので、優雅なドレスからムキムキの腕ってイメージダウンじゃないですか?」
「精霊魔法の適性が高いので、姫はそちらを伸ばす方が良いかと」
二人にそう言われて、それもそうねと思う。
「水も風も上級クラスには進めたんだけど、なかなかレベル13まではいかないのよね」
ルディは首を傾げる。
「13って最高レベルですよね? 何ができたら13なんですか?」
「それぞれの属性の、古代魔法を使えたらよ」
「へぇ、古代魔法ってカッコいいですね!」
「古代魔法だけは呪文があって、精霊王のお力を借りないといけないので、使える人は少ないの。合格したら魔導士の称号を貰えるわ」
「えっ、じゃあそれを使えるメイジーさんとレオさんって、水の精霊魔法界では、すごい人なんですね! だからお嬢様と若様の護衛騎士になれたのかぁ」
「そうね、まだ若いから軽く見る人もいるけれど、二人は騎士としても魔法使いとしても、一流なのよ」
「うわぁ、俺、見る目変わっちゃうな‥‥レオさんに軽口叩けなくなるかも」
それを聞いてメイジーが口を開く。
「いや、レオの扱いは今まで通りでいい」
「え、そうですか?」
レオ、くしゃみしてないかしら。私はルディが台車に乗せている肥料の袋を見て言った。
「ジョンの所に行くの? 私も用事があるから一緒に行くわ」
「では、私もお供いたします」
メイジーが隣に立つ。結局3人で行動するようになるのね。歩きながら会話が続く。
「汗かいちゃったから、ついでに剣術の訓練もしようかしら?」
「お嬢様、暑さを甘く見ない方がいいですよ。心配ですから、先に水分と休憩を取ってください」
「ルディの言う通りですよ」
過保護な私の騎士達に見守られながら、お兄様の帰りを待つのだった。




