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カリス公爵令嬢は幸せになりたい  作者: 成海さえ
第二部 魔法学園二年生(15〜16歳)
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II-3 馬車の中で

 帰りの馬車で学園の門を通る際、待っていたらしい数人の男子生徒がこちらに向かって手を振っていた。


 いつも使用している馬車には、カリス家の紋章である水を満たした聖杯の旗を掲げており、後は制服を着たメイジーが護衛で御者がルディなので、彼らはそれを目安に行動しているようだ。


「お見送りありがとうございます、お先に失礼します」

「坊ちゃん達、お疲れさま〜。気をつけて帰るんだよ」


 ルディと馬で追走しているレオが愛想良く挨拶する声が聞こえる。


「二年生になってから、出待ちする男子生徒が増えたね。まあ、リーディアは目立つからしょうがないか」


 座席から窓の外を眺めていたお兄様が苦笑している。


「お見送りが増えたのは、剣術の授業に出始めてからだわ。でも私よりもカミラ様の方がもっと多いらしいの」


 カミラ様は、ルイス様とは別々の馬車で移動されている。もう婚約者がいらっしゃるので、それに配慮した形だ。護衛の騎士はおらず、登下校は侍女と二人で行動されているので気になっていた。

 なのでルディに調べて貰ったところ、学園の警備兵が自発的に男子生徒を監視してくれていたらしい。


「そうなんだ? 僕は君の話をしてたんだけどな」


 お兄様は私の顔を両手で挟み、自分の方へ向けた。しばらく二人で見つめ合う。嫉妬してくれたのねと思うと嬉しくて、でも今は笑うところではないわと我慢していたら眉間に力が入り、それを近くで眺めていたお兄様が、笑って手を離した。


「ディラン様の時の方がお見送りする女生徒が大勢いたのではないの?」


 そう尋ねてみる。だって水の王子様だもの、かなりの人気だったはず。


「どうかな、僕は寮生活だったし、登下校の時間もバラバラだったから。それに、リーディア以外の女性には興味がないので覚えてないよ。レオの方が詳しいんじゃない?」


 おいで、と言われて私はその腕の中に収まった。いつも優しく触れる腕も好意を伝えてくれるから、何かあっても安心できる。


「あ、今日の放課後ディラン様と会えて嬉しかったわ。いきなりで驚いたけれど」

 そう伝えたら、彼は私の肩に頭を付けた。

「時間の調整ができるか分からなかったから、言わなかったんだ。ごめんね」


「ううん、こうして一緒に居られるだけで十分よ」

 その艶のある銀髪を見るだけでも可愛いと思ってしまう私は重症だ。


 それから話題は夏休みの予定に移った。


「ディラン様、夏休みは取れそう?」

「うん、夏は皆で交代して取るようになってるから、一週間は確保できそうだよ」


 この夏休みは、土の王子シリル様からペンタクルス領に招待されていた。大規模な船上パーティーが開催されるらしく、それにルイス殿下を参加させるのが目的だ。


 ルイス様はずっとお見合いパーティーから逃げ回っており、困っている方達が会議した結果、私やカミラ様が同席するなら確実に参加するのではとなり、王妃陛下から直々にお願いされたのだ。

 滞在期間は10日程で、最終日のパーティーに協力するお礼におもてなしをして貰えるそうなので、楽しみにしている。


「ペンタクルス領ってどんな所なのかしら? 期待してしまうわ。海があって商業が盛んなのよね?」

「うん、港には商船がたくさん停泊しているし、街には大きな市場があって賑わっているよ。海賊対策で海軍もいるんだ」

「そうなのね、見学できるといいなぁ」

「お願いすれば、させて貰えるんじゃない? 僕からも頼んでおくよ」

「ありがとう、嬉しいわ」


 道幅が広い道路では、レオやメイジーが馬車の横を並走していて、今もレースのカーテン越しに髪を切ってすっきりしたレオが見えた。ちなみに、あの見事な巻き毛はウイッグに加工して取ってある。


「そう言えば、9月にエストリアの皇太子殿下が学園に留学されるそうだよ。期間は1ヶ月だけど、今回は学園生活が中心で王女殿下と一緒に授業を受けられるらしい」

「そうなのね!‥‥カミラ様、喜んでいらっしゃるだろうなぁ」


 それは待ち遠しいわ。だって好きな人には会いたいし一緒に居たいもの。私が何度も頷いているのを見て、お兄様は笑っていた。


 後日機会があったのでレオに学園でのお兄様の人気について尋ねたら、

「もちろん最初はめちゃくちゃ女子に人気でしたが、言い寄ってくる女生徒にはあの水の王子スマイルで塩対応だったので、俺とアレン様(同学年の炎の王子)がフォローしてましたよ。懐かしいなぁ。最初の1年でかなり鎮火しましたけどね‥‥ちなみに王宮では、若が愛妻家だってみんな知っているので、たまに見かけるご令嬢は誰も媚を売って来ませんね」

 と言う返事だった。


 私達の春は、こうして過ぎて行った。

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