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カリス公爵令嬢は幸せになりたい  作者: 成海さえ
第一部 第三章 魔法学園一年生(14〜15歳)
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番外編4 王女殿下(王太子殿下)との出会い

 10歳になり護衛騎士が付いたので、お母様に王宮へ行ってみたいとお願いした。乙女ゲームの悪役令嬢であるカミラ様にお会いしたかったからだ。

 お母様は私の成長を喜び、お出かけ用のドレスを何着か作って下さった。


「カリス領もいい所だけど、王都も素敵よ。王妃陛下にもご連絡したから、カミラちゃんと四人で流行りの歌劇を観に行きましょうね?」


 何だかとても張り切っていらっしゃる。私としては王都のタウンハウスに一泊ぐらいして戻るつもりでいたけれど、そうもいかないようだ。

 今回はお留守番を言い渡され、しょんぼりしているお兄様を残して王都に向かった。



 さっそく第一王女専用のカルミア宮に案内され、お茶の席が設けられてお母様から紹介を受けた。


「それでは、しばらく二人でお話ししてなさいね。私は王妃様のサロンに居るから、終わったらリーディアはそちらへいらっしゃい‥‥メイジー、お願いね」

「かしこまりました、奥様」


 テーブルの上にはケーキスタンドとお茶の用意がしてある。何を話そうかしら‥‥とカミラ様を見た。

 ペリドットの綺麗な瞳に金の髪、まだ巻いてはいないのね。目尻が少し上がっているから勝ち気そうに見える。手元には明日観る予定の歌劇のパンフレットが用意してあった。


「リーディア、せっかくだからお料理をいただきなさい。料理長の作るものはどれも美味しいけれど、スコーンはどうかしら? クロテッドクリームを多めに付けるのがお勧めよ」


 カミラ様にそう話しかけられ、私はスコーンを手に取った。クリームを乗せて食べてみる。


「‥‥美味しいです!」

「でしょう? 数日滞在予定だと聞いているから、また食べにいらっしゃいな」


 それからお茶をしながら観劇の話になり、カミラ様がパンフレットを広げて側にいる侍従に話しかけた。

「リーディアの位置が遠すぎるわ。椅子をもっと近くへ運んでちょうだい」


 二人でパンフレットを見られる距離になり、カミラ様がお芝居に対する熱い想いを語り始めた。そのパンフレットも折り目が付いていて端がよれており、ずいぶん前から楽しみにしていらしたのねと思うと微笑ましい。


「それでね、この主人公のモデルになった騎士なのだけれど、まだご健在なのよ。それって素晴らしくない?」

 ペリドットの瞳をキラキラさせてカミラ様が問いかける。私は頷いて口を開いた。


「あの、ちなみに私の護衛騎士は、そのフェアバンクス伯爵のご息女でございます」

「何ですって!?」

 カミラ様は椅子から立ち上がった。私もそれにならう。


「メイジー、ご挨拶を」

「承知いたしました」

 返事をして、彼女はカミラ様の前で片膝をついた。

「王女殿下にご挨拶申し上げます。カリス領私設騎士団副団長のメイジー・フェアバンクスと申します。現在はカリス公爵令嬢の護衛を務めさせて頂いております」


「そうだったのね‥‥分かったわ」

 カミラ様は椅子に腰を下ろした。

「リーディアのそのイヤーカフは、フェアバンクス卿と契りも結んでいるのね?」

「ええ、さようでございます」

 私も椅子に座った。後ろにさがったメイジーが、会話に加わる。

「恐れながら、リーディア様は私の兄とも契りを結んでおられます」


 カミラ様はまた大きな目を見開いた。

「まあ!‥‥箱入りのほんわかしたご令嬢だと思っていたけれど、なかなかやり手なのね、リーディア。決めたわ、あなたは今日から私の親友よ。呼び方もカミラでいいわ」


 王女殿下から手をぎゅっと握られ、仲良くなりたかった私も光栄ですと答えた。



 王妃陛下のサロンに案内されても、お母様の姿はなかった。お二人で衣装を見に行かれたそうで、しばらく戻らないと言うことだったのでメイジーと二人でお庭に出る。


 少し疲れたのでベンチに座ろうとしたら、その近くで一人の少女がうずくまっていた。背中が微かに震えている。

 私も側にしゃがんで話しかけた。

「あの‥‥大丈夫?」


 こちらに背を向けていた少女が振り返った。泣いていたらしく、驚きで見開かれた大きなエメラルドの瞳が濡れている。金髪の美少女だった。

 王族関係の方かしら? 第二王女殿下とは違うみたいだけど‥‥ハンカチを差し出しながら話しかける。


「失礼ですが、お名前は?」

「‥‥ルイーズ・フィアンティーヌ」


 涙を押さえながら答えがある。ここに来る前に王族関係の貴族名鑑をおさらいしたけれど、そんな名前のご令嬢は居なかった。どこかで聞いたような気もするけど、訳ありの方なのかしら?


「お身体の具合が悪いのですか?」

 尋ねたら、首を横に振られる。

「私‥‥ドレスを着たいだけなのに、皆がダメって言うの」

 それで泣いていたのね? 私も同年代だから、ファッションショーをしたいのは分かる。


「それなら簡単だわ。ルイーズ様も貴族の令嬢なら、役割があるでしょう? 周りから求められる以上にお勉強やお稽古事をこなせばいいのよ。それが終わったら、好きなだけドレスを着るといいわ」

「ドレスは着てもいいの?」

「ええ。だってとてもよく似合っているもの」


 ルイーズ嬢は立ち上がり、私の手を引いた。立ってみると、彼女は私より少し背が低かった。そのまま抱きしめられる。

「ドレスを着ていいって言われたのは初めてだよ、ありがとう。こんな可愛いご令嬢が居たなんて、知らなかった」

 彼女は腕を緩めて微笑んだ。向かい合って手を繋ぎ、私の左手の指輪を見て呟く。


「もう婚約しているんだね‥‥銀髪だからカリス領のご令嬢かな。あなたの名前は?」

「リーディア・カリスよ」

「ああ‥‥」


 彼女の視線が、私の耳やメイジーを確認する。何かを考えるように睫毛を伏せ、そして真剣な表情で私を見た。

「リーディア‥‥ディアお姉様、私にもまだチャンスはあるかしら?」

「私達はまだまだこれからだもの。いくらだって挽回できるわ」


 その答えを聞いて、ルイーズ嬢は私の左手の甲にキスをした。

「とりあえず、堂々とドレスを着られるように頑張るね。そしたら、私のこと褒めてくれる?」

「ええ、もちろん」

「約束よ、また会いましょう、お姉様」

 そう笑って彼女は出口に向かって歩く。途中ですれ違った侍女が足を止めてお辞儀をしていた。


「あの子‥‥どなたなのかしら?」

 思えば、王妃様のプライベートな空間に出入りできる人なんて限られている。

「名前は聞き覚えありませんが、あの瞳は相当な精霊力の持ち主かと」

 だから、特別扱いされているのかしら‥‥今度もし会えたら、様子を見ながら聞いてみよう。



 そして翌日、カミラ様の口から衝撃の事実が伝えられたのだった。

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