3-54 ディラン2
夜はソファーに座り、お兄様と学園の話になった。
「リーディアは僕の女性関係ばかり気にするけど、君の人気も相当なものなんだよ。王女殿下や女装した王太子殿下と行動を共にしてるから、相乗効果がものすごくあるしね」
それは‥‥何となく分かる。いつも誰かしらの視線を感じるもの。
「メイジーやルディが守ってくれているから、大丈夫よ」
「僕もまだ卒業しないで、ぎりぎりまで学園に在籍するからね」
一度卒業してしまうと部外者となり、中に入るのにいちいち面倒な手続きをしないといけないらしい。
そのため彼は学園卒業者への恩恵が受けられずにいる。例えば、王宮で官吏として働く際に、学園卒業者であれば最初から中級の受験資格を与えられるのだけれど、お兄様は該当しないので初級の受験から始めた。
全ては『リーディアが心配』だからだそう。
それを聞いたアレン様とシリル様は若干引いていたらしい(レオ談)。
フェアバンクス伯爵が自分の家門は執着心が強いって言っていたけれど、私とお兄様もなかなかのものだと思うわ。
「君はまだ15歳だから、これからもっと綺麗になっていくんだろうね。周りに優秀な令息や騎士も沢山いるし、注目の的だろうな‥‥そう言えば、僕が入学パーティーに遅れたのも、君や王女殿下のデビュタント姿を見ようと受験会場から脱走した下級官吏が居たからなんだよ」
だから心配、と顔に書いてあった。
私と同じだわ。お兄様も嫉妬したり、不安になったりするのね。
「‥‥そうね、困ったわ」
そう呟くと、至近距離に居る彼がしょんぼりするのが分かる。私は続ける。
「ディラン様が何を言っても可愛く思えるんだもの。かなり重症ね、私」
それから、カミラ様との会話も付け加えた。
「以前エストリアの皇太子殿下がご来訪された際に、カミラ様に聞かれたの。“カリス卿のどこが好き?”って」
私は“全部です”と即答したけれど、特に好きな部分としては、たまに見せる嬉しそうな優しい表情ですと付け足した。
するとカミラ様はくすりと笑って仰った。
『ああ、リーディア限定のあの顔ね? でも知ってるかしら、あなたもカリス卿限定で同じような表情をしているのよ? さすが兄妹ねって思って見ていたわ。お似合いすぎて誰も間に入れないわね』
それを聞いたお兄様は、嬉しそうな優しい表情になった。多分、私も同じ表情をしているに違いない。
私達は顔を見合わせて笑い合った。
“綾”の世界のゲームは既にエンディングを迎えているけれど、私達の物語は未来に向かって進んでいく。
私はこの先もお兄様と一緒に歩いて行きたい。共に幸せになれる道を探して行きたいと思う。
「まだまだ先は長いな」
私の肩に頭を乗せたお兄様が息を吐いた。
「ええ、でも何があっても大丈夫。私がお兄様を幸せにするわ」
そう断言したら、楽しそうな笑い声が聞こえた。
「やっぱり僕の奥さんは頼もしいね。結婚できて良かったよ」
「そうでしょう? 大事にしてね」
「もちろん」
ぎゅっと抱きしめられた。




