3-53 ディラン1
引き続きお兄様の腕の中で、幼少の頃から今までを思い返して、ふと疑問に思う。
「それにしても、なぜ私とディラン様だけは早くに婚約できたのかしら」
そう呟くと、お返事があった。
「それは、僕が望んだからだよ」
お兄様は続ける。
「実は、最初から僕の婚約者がリーディアと決まってた訳じゃなくて、何度か他家の令嬢と会わされた事もあったんだ」
その最たるものが、カミラ様の誕生日パーティーだったそうだ。
お兄様が7歳、カミラ様が5歳の時に、王女殿下の誕生日パーティーが開催された。
それはお見合いの意図も含まれており、参加者は、親の爵位が伯爵以上で歳の近いご令嬢達、男子で招待されたのはお兄様と当時4歳の王太子殿下だけだった。
これは私もカミラ様から“最悪のBDパーティーだった”と伺った事がある。会場に現れたルイス様はご令嬢達に囲まれすぎて大泣きして即退場だったらしい。
後に残されたお兄様も、その宝石のような瞳に興味津々なご令嬢や、とにかく仲良くなれと親に指示されたご令嬢達に詰め寄られたそうで、カリス領に戻って来た時には彼の様子がおかしかったのを覚えている。
「僕が女性不信になりかけ、この目も隠してしまおうかと悩んでいた心を癒やしてくれたのが、君だった。僕は最初から婚約者にはリーディアを希望していたし、それが通ったって事かな」
私は当時を思い出しながら尋ねる。
「ディラン様の心を癒やしたって‥‥私、何かしたかしら?」
それを聞いて、お兄様は優しく微笑んだ。
「あの時僕が“自分の瞳が嫌い”と愚痴を言ったら、君は小さな拳を握って“お兄様の瞳は世界で一番きれい”と力説してくれたんだよ」
うん、それはまあ本当の事だものね。
頷いたら、彼はくすりと笑って思い出すように遠くへ視線を移した。
「後ね“お兄様が自分の瞳を好きになりますように”って寝る前にいつも目蓋にキスしてくれてたんだ。それでトラウマが克服できたから、今度は僕が君の額におやすみのキスをするようになったんだよ」
なるほど。詳しくはよく覚えてないけれど、でも。
「今のディラン様が同じ愚痴を言っても、同じ行動を取りそうだわ、私。だってやっぱりお兄様の瞳は世界一だもの」
「うん、ありがとう」
嬉しそうに笑っているお兄様を見ると、私まで幸せな気分になる。
「あと、君と婚約できたのは、これもあるかな。父上に“僕の婚約者が決まるまでリーディアの相手を決めないで”ってお願いしていた」
「あら、そうなの?」
「うん、ごめんね。幼いながらも、君が他の男と将来を誓うのが嫌だったんだ」
だから、小さい頃お兄様は自分の事を欲張りって言ってたのね‥‥と納得する。
でも、嫌な気分はしないわ。私もお兄様以外は考えられないので、逆にありがとうと言いたいくらいだ。




