3-50 休暇1
往きと同じく王都に転移するため、国境を越えてワンズ辺境伯城に戻る。
「リーディア‥‥!」
馬車を降りて、あら、お兄様もいらっしゃるわと思ったらすぐに抱きしめられてしまった。お顔を見上げると、目の下に隈がある。ああ、心配かけてしまったのね。
「ただいま戻りました‥‥“ディラン様”」
“年が明けたら名前で呼ぶ”と言う約束を思い出し、そう呼んでみた。お兄様に笑ってほしくて。
「お帰り」
彼は淡く微笑み、私を抱き上げた。
「使者様は僕達と一緒にいらしていただけますか? レオ、メイジー、ルディもこちらへ」
使者様は頷き、騎士達も了承の返事をしてお兄様の後に続いた。彼が向かったのはお城の転送部屋だ。遠くからルイーズ様とカミラ様が笑いながら手を振っていた。
「お願いします」
あらかじめ調整していたのか誰もとがめる事もなく、私達が転送されたのはカリス辺境伯領の城だった。部屋の壁にカリス辺境伯領を表す青い旗と国境騎士団を表す緑の旗が掲げてある。
お兄様は私を抱き上げたまま歩き出した。自分で歩けるわと思ったけれど、そう言う雰囲気ではなかったので、そのままにしておいた。
案内されたのは以前私が使用していた部屋ではなくて、別のもっと広い部屋だった。
「お嬢様‥‥!」
侍女のアルマが駆け寄る。ようやく下ろして貰えたので、彼女にただいまを告げると、涙の浮かんだ瞳で見つめられる。
「エストリアで大変なめにお遭いになったとか!‥‥公爵様や奥様も心配していらっしゃいましたよ。ご無事なお姿を拝見できて、やっと安心致しました‥‥お疲れでしょう? すぐに入浴の準備を致しますね。領主様ご夫妻もお待ちですよ」
そうしてアルマが隣の浴室へ準備のため入ったので、私とお兄様はソファーに座った。
「リーディア、諸々の許可は頂いているから、暫くはここで過ごそう。疲れが癒えるまでは、王都に戻らなくていいからね」
入浴を終えてしばらくすると夕食に呼ばれたので食堂へ行き、祖父母に挨拶を済ませた。特にお祖母様には話したい事が沢山あった。
「お祖母様!」
ハグすると、優しく微笑んで背中を撫でてくれた。エストリアの皇帝陛下と同じ黒髪だけれど、陛下の黒は緊張感を伴う反面、お祖母様の黒は安らぎを与えてくれる。
「鎖帷子のお花の刺繍、ありがとうございました」
試練の前、装備の話になったのであの鎖帷子をみんなに見せたら、かなり場がざわついた。
「何これ! 刺繍も見事だけど、込められた魔力の威圧感が半端ないんだけど?」
ルイス様の賛辞に、アレン様も頷く。
「炎の力だな。リーディア嬢、これは誰が?」
辺境伯領のお祖母様です、と告げると納得したようだった。普段無口なケイ・ロスも『さすがですね』と言っていた。
「ふふ、どういたしまして。何かあったのかしら?」
お祖母様に尋ねられたので、当たり障りのない答えを探す。
「学園の友人に見せたら、見事な刺繍だって褒められたんです‥‥あ、あと、エストリアの皇帝陛下とお知り合いだったのですね?」
「ええ、そうよ。なかなかお会いできないのが残念だけど、文通だけなら、もう30年以上続いているかしら」
「えっ、そんなに!?」
まだまだお話ししたかったけれど、久しぶりにお祖母様の作ったお料理をいただいて、今日の所は部屋に戻った。




