1-6 ディランの護衛騎士2
“シュヴァリエの誓い”は神の前で主従関係を誓う儀式。今回の“シュヴァリエの契り”は、騎士とレディが精神的な繋がりを宣誓するものだ。
公式に認められた儀式ではないため、基本的に立会人が一人と、その証として騎士がレディに贈るイヤーカフがあれば成立する。
神殿に寄付をすれば立会人にもなって貰えるので、私の場合は公爵令嬢と言うこともあり、神殿で宣誓式を行うことが決まった。
イヤーカフは騎士が自身を象徴する装飾が好まれるので瞳と同色の宝石を使われる例が多く、レオも1ヶ月かけて魔法石に自分の魔力を貯め、とても綺麗な魔法石のついたイヤーカフが仕上がっていた。
水の精霊神殿の式典の間にも精霊王の立像があり、私はその前に立って室内を向き、レオは片膝をついて私の手を取った。
神官が宣誓文を読む。
「この誓約は精神的なものとし、いついかなる時もお互いを思い遣り、レディはその高潔な態度をもって騎士の支えとなり、騎士はその献身的な態度をもってレディを守る事を誓約するものである」
隅に控えていた助官がお花とジュエリートレイを運び、レオは綺麗にラッピングされたバラの花一輪を私に差し出した。
「ありがとう」
お礼を言って受け取る。
レオは宝石がついたリング型のイヤーカフを持ち上げ、私の横にしゃがんでその手で左耳に付けた。
「これからよろしくお願いします、リーディア様」
「こちらこそ」
こうして、私はレオと主従以外の契約を結んだ。
その日以降、レオと話す機会が増えた。
例えばお兄様が剣術の稽古をしている時に、邸の稽古場へ行くと、見学していたレオがすぐに気付いて手を振ってくれる。
「姫ちゃん、こんにちは。一緒に見ますか?」
そう聞かれて頷くと、縦抱っこしてくれるのだ。一気に視界が広くなるこの場所が大好きだった。
「‥‥今日は元気ないですね。どうされましたか?」
「刺繍が上手にできなくて」
先程まで練習で使っていたハンカチをレオの視界いっぱいに広げる。
「えっとこれは‥‥飛翔系の魔物ですか?」
「‥‥お花のパンジーよ」
「ああ! 紫と黒と緑がありますもんね! パンジーだと思った〜‥‥大丈夫、姫ちゃんまだ8歳だから、これからが伸び盛りですよ」
そしてそのハンカチはレオに持ち去られてしまうのだった。