3-49 パーティー5
カミラ様は薬で眠らされているとの事だった。現場にそれらしき薬品も残されていたようだ。
身体に大きな傷はなかったけれど、ロープで縛られていたので、その痕が手と足についていた。
王女殿下がお医者様の診察を受けている間に、レオから報告を受ける。
「ベルのおかげで場所はすぐに突き止められました。あの乗り物は羽音があまりしないので、気付かれる事もなく潜入出来たんです」
ベルは『私にお任せください』と言い、先頭に立って歩き出す。途中で出会う敵兵は、ベルと目が合うと全員胸を押さえ、吐血して倒れたそうだ。
地下には大きな祭壇が設けられており、その前方の床に悪魔召喚のサークルが描かれ、カミラ様が横たわっていた。生贄にするつもりだったようだ。
首謀者の貴族は捕らえられ、それ以外の兵士は全員不審死を遂げたらしい。
「いやぁ、俺達騎士は何もする事がなかったです。ベルが全部処理してくれたので」
ひと通り説明を受けたところで医師に呼ばれ、カミラ様の部屋に移った。今は眠っているだけで、外傷はほぼないそうだ。
精神面での診断も行うので、目が覚めたらまた医師を呼ぶ事になった。
貴人の寝顔は見せられないので、天蓋のカーテンを下ろし、近くのソファーにルイーズ様と共に座った。ルシファー様は事後処理に当たっているため席を外している。
これからの事を話していると、ベッドの方から衣擦れの音がした。
「‥‥賑やかね」
カミラ様!
私とルイーズ様はお側に駆け寄る。目覚めたカミラ様の顔色は悪かったけれど、安心させるように微笑んでいた。
「カミラ姉様、大丈夫ですか? どこか具合が悪いところはない?」
ルイーズ様が話しかけると、カミラ様は首を横に振る。
「身体が怠いくらいよ。それよりも、状況の説明をして貰えるかしら」
それを受け、ルイーズ様が簡単に説明する。それが終わる頃に医師が部屋に戻って来たので、私達は席を外した。
カミラ様ご本人の希望もあり、犯人も既に捕えられ、エストリア側の謝罪も済んでいる為、この事件による婚約の継続の有無は問わないこととなったので、私も気持ちを切り替えたいと思う。
精神的にも問題ないそうだけれど、念の為、帰国日を一日伸ばし、1月3日に冬の離宮を出発する事が決まった。
カミラ様は誘拐されたショックが大きかったのか、翌日は終日ベッドで眠っておられ、私は騎士達と離宮の見学をして過ごした。
その翌日も丸一日オフ日だったので、朝、カミラ様のお部屋を訪ねたら、既にルシファー様がベッド脇の椅子に腰掛けていらして、空気を読んだ私はご挨拶を済ませてすぐ外へ出た。
「どうする? 姫ちゃん。騎士がいっぱい居るから、庭で本気の雪合戦でもする?」
目の前には、レオ、メイジー、ルディ、ジーン様、ケイ・ロス、使者様にルイーズ様も揃っていた。
「ちょうど8人ね」
「いやディア姉様、私達が本気で戦ったら、お庭が壊滅しちゃうから!」
「うーん‥‥じゃあ、時間もあるから、アルカナでお留守番してる人達にお土産でも買いましょうか?」
「いいね!」
それから侍従の一人に案内して貰って街へ行き、新年でも開いている商店でお土産を購入した。
そして出立の日、ルシファー様に別れの挨拶をした後カミラ様とルイーズ様が馬車に乗る姿を見届け、私も騎士服に戻ったメイジーの手を取ってもう一台の馬車へと歩く。レオがドアを開けてくれて、先に使者様が入った。
「姫ちゃん、申し訳ないけど、若には全て報告したからね」
馬車に乗り込む際に、レオが眉を下げて言った。
「俺には報告義務があるし、どうせ隠せないから」
「ええ」
お兄様、心配してるでしょうね‥‥会いたいなぁ。




