3-45 パーティー1
カミラ様のドレスは深いVネックにスカートは膨らみを抑えた大人っぽいものだった。刺繍や模様編みのレースも贅沢に使われている。巻き髪はサイドに流し、お花のヘッドドレスをあしらった姿は、精霊の姫君のようだ。
『くうぅ、私がエスコートしたかったのに!』とルイーズ様の顔に書いてあったけれど、見なかった事にして、私は扉の前でジーン様の腕に手をかけた。彼が選ばれたのは侯爵子息だからだ。カミラ様の隣にはもちろんルシファー様が寄り添っている。
「ルシファー・ラブラス・エストリア皇太子殿下、並びにアルカナ王国第一王女、カミラ・ソード・アルカナ様のご入場です」
官吏から紹介があり、お二人がホール内に入場する。
「続いて、アルカナ王国カリス小公爵夫人、リーディア・カリス様、並びにアルカナ王国クリブランド侯爵ご令息、ジーン・クリブランド様のご入場です」
私もジーン様のエスコートで歩き出した。好奇の視線が痛かったけれど、笑顔で挨拶し続けた。
ひと通り紹介を終えると、ルシファー様は私達をテーブル席へ案内した後に他の客人の方へ行ってしまった。既に沢山の貴族に囲まれている。
今のところ、そこまで敵意を向けられる事もなく過ごせていた。
「失礼致します。少しだけご一緒してよろしいですか?」
時折り話しかけてくださるエストリアのご令嬢達も、私達の装いに興味を持たれた方が多く、始終和やかに会話ができた。
「お疲れでしょう? お飲み物をご用意しましょうか」
ジーン様が手を挙げて近くの給仕に声をかけた。私はカミラ様に目を向ける。微笑みが返って来たので、嬉しくて笑顔になる。
そうして、明日は宮殿の見学をするか、それとも天気が良ければ犬ぞりに乗ってみるか楽しく会話していた時だった。
「ご歓談中に失礼致します」
低く気取った男性の声と共に、気配もなく一人の侍従が私の真横に立っていた。ジーン様がすぐに手を広げて遮り、脇に控えていたレオ達もその男性を取り囲む。
彼は睫毛を伏せて微笑んだ後、私達に向かって優雅にお辞儀をした。
「紹介が遅れました。私は陛下の使い魔でベルと申します。こちらのお嬢様方をお連れするようにとの事でしたので、お迎えにあがりました」
「‥‥分かりました。案内してください」
カミラ様が頷いたので、ベルの後に付いて陛下の元へ向かう。彼が前に進むと、貴族達はさっと避けて道を作っていた。
いつの間にか玉座の両脇に席が設けられており、断る訳にもいかず私とカミラ様は上機嫌な陛下の左右にそれぞれ腰を下ろした。
「今宵はとても良い夜だな」
黒いドレスに身を包み、豪華な王冠とマントを纏った陛下は私とカミラ様を交互に見て赤い唇を吊り上げた。
「上級魔族を見たのは初めてではないか?」
「ええ、外見は人間と変わらないように思えます」
視線が合っていたカミラ様が答える。
「ベルは知能も高いし他の悪魔とは格が違うのだ‥‥ベル、悪魔と人間の関係について教えてやれ」
「承知致しました、我が主」
陛下の後ろに控えていた彼は優雅にお辞儀をした後、説明を始めた。




