3-41 冬休み2
この国にも転移魔法装置はあるけれど、魔法石を大量に必要とするので普段はあまり使われない。
ただ今回は王族が関わっているのと、エストリアからの結納品の中に魔法石もかなり含まれていたので、往復で使用できるようだ。
王宮に設けられた転移ゲートから、ワンズ辺境伯領に設けられたゲートまでとなる。
その先は馬車で国境を越える予定だ。
王宮内の第一王女殿下専用のカルミア宮が集合場所で、メイジーは準備があるからと先に出発した。
私は見送りを申し出たお兄様、同行するレオ、ルディ、使者様と共に王宮へ向かった。
侍女に案内されてカミラ様のサロンに入ると、ケイ・ロスとジーン様は先に到着しており、着替えも済ませていた。
ちなみに、ジーン様とはクリブランド侯爵子息で、シリル様(土の王子)の護衛騎士をされている方だ。シリル様の従兄弟にあたる。
今回、信用できて腕の立つ護衛と言う事で、彼ら二人が王宮騎士に扮装しての同行が決まった。国外に関しては、王族を守護する“影”は同行しないらしい。
「お待たせ! こっちも準備終わったよ」
扉が開いて侍女の衣装を身に付けた王太子殿下とメイジーが入室する。
もう見慣れている王太子殿下の女装には誰も何も言わなかったけれど、メイジーのスカート姿を見てルディとレオが口を開いた。
「えっ、メイジーさんじょそ‥‥んんっ(咳払い)今回は侍女として参加なんですね!」
「いやぁメイジーがスカート穿くなんて何年ぶりか? 隊服が似合いすぎてて女装もできるって忘れてたわ‥‥でも厳つい身体をよく誤魔化してるよなぁ」
それについては、ルイス様が得意げに答える。
「でしょう?‥‥デザインにもこだわったんだよねぇ。戦闘になっても動きやすいから大丈夫だよ!」
「だそうだ」
メイジーが近寄って眺めていたレオの足をブーツの踵でぎゅっと踏んだ。
「いてて、やめてメイジーちゃん」
「もう片方も踏まれたいのか?」
同じく側に来ていたルディがなだめる。
「まあまあメイジーさん、女装もお似合いですよ‥‥いたっ‥ありがとうございます!」
「なあルディ、足踏まれて何でお礼言ってんの?」
「だってメイジーさんのこれは、愛のある指導ですよね?」
「ルディめちゃくちゃポジティブだな? こんなの只の嫌がらせだろ‥‥いたっ!本当歩けなくなるからやめて」
「加減はしている」
「メイジーさんの加減って足の爪が割れないギリギリのラインとかですか?」
「いやほんと手の早いゴリラだからこいつ」
「レオさん、ゴリラって何ですか?」
「お伽話に出てくる、全身真っ黒で毛むくじゃらの人間に似た動物。腕力が成人男性の10倍以上はあるそうだ」
「えーメイジーさんすごーい」
ルディのキラキラした瞳に、メイジーが溜息をつく。そうして私を含めた4人共がお兄様を見た。
いつもだったら止めに入ってくれるお兄様は、少し悲しそうにこちらを眺めていた。
「‥‥若のしょんぼり具合がひどいですね」
レオが私に話しかける。私は頷いてお兄様の前に立った。
「お兄様、すぐ戻って来ますから待っててくださいね!」
手をぎゅっと握る。侍女姿の殿下も隣に並んだ。
「そうだよ、ディア姉様は必ず守るから、安心して」
「‥‥うん、分かった」
お兄様の機嫌が上向いたのを確認して、私達は出発した。




