3-40 冬休み1
学園が冬休みに入った。
私は年末に予定しているエストリア訪問の準備の為、王宮に来ていた。
カミラ様とルシファー様の婚約が本格的に決定したので、年末年始をエストリアで過ごすのだろうと皆は思っている。
パーティー用ドレスの最終調整を終えてカミラ様とお茶をいただいていると、メイジーを伴った王太子殿下もカミラ様のサロンに顔を出した。
「こちらも終わったよ。あー、私も一緒に行きたかったなぁ‥‥カミラ姉様とディア姉様のドレスアップした姿、見たかったなぁ」
王太子殿下と炎、土の王子様はこの冬休みはお見合い漬けらしい。まあ今まで婚約者がいらっしゃらないのが不思議だったものね。
‥‥と言うのは建前で、実は先日の試練の際に、ルシファー様からとあるお願いをされていたのだ。
◇◇◇
「もう明日出発なんだね、心配だな」
いつものソファーではなく暖炉の前で寄り添って座りながら、お兄様が溜息をついた。窓の外は冬空に星が瞬いている。
「大丈夫よ。頼もしい騎士達が一緒だもの」
ルシファー様のお願いとは、試練で国宝級のアーティファクトを貸す代わりに、冬休みはカミラ様と私の二人でエストリアを訪問して皇帝陛下にも会って欲しいと言う内容だった。
ただし、この婚約に反対している貴族が悪さをするかもしれないので、腕の立つ、信頼できる騎士を必ず何人か同伴するように、と告げられた。
「人選に不満はないけど‥‥僕も変装して付いていこうかな」
「ダメよ、お兄様は瞳ですぐに分かってしまうから。招待されているのは私とカミラ様だもの。それに、今から変更は難しいわ」
「うーん、けれどせっかく王宮も年末年始の休暇に入るのに、新婚のこの冬を妻と一緒に過ごせないなんてなぁ」
隣でお兄様が珍しく拗ねている。
私は彼の腕に両手を絡めて体重を預けた。
「3日には戻って来られるから、それから二人でゆっくり過ごしましょう?」
「うん‥‥そうだ、ひとつお願いがあるんだけど、いいかな?」
「ええ、なあに?」
「“お兄様”って呼ぶのは今年で最後にして、来年からは名前で呼んでほしいな」
ね? と顔を覗き込まれ、ハイと頷いた。
分かっていたの、名前で呼んだ方がいいんだろうなって‥‥でもタイミングが掴めなくて!
お兄様は嬉しそうに笑って口付ける。
もう機嫌がなおってると言うことは、先程の不満は言ってみただけだったのね? 私もお兄様の希望を叶えられないのはつらい。
それに明日からしばらくこの麗しいお顔も見られなくなるのだわと実感すると、寂しくなってきた。
彼の腕から手を離し、その代わり両手を身体に回して抱きついた。頬を彼の胸にくっつける。
「ふふ、どうしたの?」
私を受け止めながら尋ねられたので、
「しばらく会えないから、お兄様の温もりを覚えておこうと思って」
と告げたら、そっと髪を撫でながら穏やかな声がする。
「そんなに可愛い事を言うと、離してあげられなくなるよ」
私はお兄様を見上げた。彼と二人で過ごしたい気持ちはとてもある。けれど何より‥‥
「カミラ様が嫁ぐ国をこの目で見てみたいの。私にできる事があれば、協力したいわ」
「うん、そうだろうね。君は昔から王女殿下が大好きだから」
お兄様は手を止めずに苦笑する。諦めの色も入っていた。
「では僕もリーディアを覚えておきたいから、協力してくれる?」
彼のこう言うお誘いは断らないようにしている。無理は言わない方だから、出来るだけ応えたい。
頷いたら、抱きしめられて口付けが深くなった。気付くとふかふかのラグの上に押し倒されていたので、お兄様の胸を押し返した。その瞳を見上げる。
「うん、もちろんベッドに運ぶよ、お姫様」
彼は笑って私を抱き上げた。
お兄様はいつも優しいので、今回も明日に響かないように加減してくれたと思う。




