3-39 ルディ3
「よし、行けルディ! ここは俺が責任を持つ。主人を侮辱されて引くな」
急に横から野次が飛んだ。アレン様がいつの間にか現れていて、後ろには長身のケイ・ロスが控えている。メイジーも腕組みして成り行きを見ていた。
ルディが確認するように私に視線を送ったので、頷いて応える。
「では、お手合わせ願えますか?」
ルディが申し込むと、騎士からは舌打ちが返って来た。
「えー、騎士なのに態度悪ぅ」
ルイーズ様が苦笑する。その間にも、メイジーとケイ・ロスが生徒に防御魔法をかけて後ろに下がらせていた。先頭には二人が武器を構えて立ち、有事に備える。
「では、はじめ!」
アレン様の合図で二人が剣を抜いた。先に動いたのは相手方だった。瞳が深い緑なので、風魔法が得意なのだろう。風の刃が連続してルディを襲ったが、全て剣で弾き返していた。
ちなみに、ルディの剣は就職祝いに私が贈った特注品で、魔法を跳ね除ける性質を持っている。風魔法が効かないと思ったのか他の属性に変えたりもしたが、ルディの身体には掠りもしなかった。
「緑の瞳、どこかで見たような‥‥王宮騎士団にあんな奴いたかな‥」
単調な攻撃を見学しながら、ルイーズ様が首をひねっている。
受け身だったルディが動いた。地面を蹴って正面から距離を詰める。驚いた騎士が風魔法を放つが、それを相手に向かって弾き返し、同時に斬りかかる。
騎士の体勢が崩れたところで床に片手をついて足払い、そして相手の武器を遠くに蹴り飛ばした。
「そこまで!」
アレン様の制止に、ルディは剣を下ろした。
「ありがとうございました」
騎士に一礼して踵を返す。
「あー思い出した。門番だ。あの騎士、確か一時期門のとこに立ってたわ。もうさ、立ち姿で分かるんだよ。ルディ達は体幹が整ってるから立ち姿も綺麗だよね」
両脇からルイーズ様とカミラ様に腕を組まれる。
「行きましょう、ディアお姉様。見る価値もなかったわ」
「全くその通りね」
戻る前にルディに声をかけようとした時だった。
地面に倒れていた騎士が手を持ち上げ、ルディの背に向かって風魔法を放った。
「ルディ!」
私の叫びと同時に、それに気付いたメイジーの氷の鞭が攻撃を弾き返し、ルディを庇うように二人の人影が立ち塞がった。メイジーとケイ・ロスだ。
ケイ・ロスの低い声が沈黙を破った。
「もう対戦は終わっている。我が主の言葉が聞けぬのか?」
「お前の行いは、到底騎士とは言えないな」
続けるメイジーに、騎士の顔が歪んだ。
「女のくせに‥‥!」
「黙りなさい! か弱そうに見える女性でも、この国のために戦っているのですよ、知らないと思うけど! それに、隣国のエストリアは女帝が治めている国なのですよ!」
ルイーズ様が通る声を張り上げた。
「我が国の騎士を名乗るなら、精霊魔法が何のためにあるのか考えて使いなさい! 魔力持ちだからって優越感に浸り、更に他人の産まれながらの特性を批判するとか最低!」
「ハイハイ、もう終わり。そこの騎士とお坊ちゃんは後で反省室に入ってな。先生、後はよろしくお願いします」
アレン様が場を強引に締めて、部外者は全て退出となった。
邸に帰ってルディの姿を探すと、厩舎で馬に餌をあげていたので、その隣に立った。
「‥‥お嬢様、今日は申し訳ありませんでした。俺のせいで騒ぎになってしまって」
笑顔をしようとしていたけれど、落ち込んでいるのが分かる。私は馬を撫でながら言った。
「ルディは、今のままでいいのよ。これからも、ずっと私の騎士でいてね」
「はい、ありがとうございます」
ポンと彼の背中を叩いて、その場を後にした。




