3-38 ルディ2
とある12月中旬の晴れた日に、温室のテーブル席で両殿下とお茶をしていると、講義待ちの生徒の何人かが魔法実習棟へ向かいながら話しているのが聞こえた。
「これから炎魔法初級クラスで、騎士達のデモンストレーションがあるんだって。しかも、そのうち一人は魔力無しらしいぞ?」
「うそ! 負け確定じゃん?‥‥やられ役?」
後ろにはメイジーひとりが控えており、ルディは所用で遅くなると聞いたばかりだ。私は思わず立ち上がった。
「うーん、大丈夫だと思うけど‥‥ディア姉様が気になるなら見学に行く?」
ルイーズ様が席を立つ。そうね、とカミラ様も腰を上げた。
「本日は、魔法を使った戦闘について説明します‥‥まず、敵に出会った際は、どの魔法が有効なのか確かめる為にレベル1で習った小さな球を飛ばします」
教師の説明が終わると、見覚えのない騎士が初歩の魔法を放ち、盾を持ったルディがそれを受けていた。
私は胸を撫で下ろす。そっか、初級の授業だから、そんなに激しいものではないのね。
もう12月なのに、まだこんな初歩の授業を? と思う方もいらっしゃるだろうけれど、魔力持ちと言えども個人差があり、私の周りの濃い血筋の方々が群を抜いているのであって、血が薄かったり魔法が苦手な生徒も一定数存在する。
「あの騎士はどこの家門かしら?」
メイジーに尋ねるとすぐに返事が返ってくる。
「王都にある伯爵家の傍系ですよ。以前は王宮所属の騎士でしたが、今は本家の子息の護衛をしているようです」
王宮騎士と言えば、ルディが目指していた職種だわ。彼も受験する資格は持っている。
「でも、騎士棟で見たことないわね?」
「ええ、主人を待つ間は鍛錬もせずに街へ行って遊んでいるようです」
その間も戦闘と解説は続き、最後に初級の最大レベル5で覚えるアロー系の魔法を撃って終わりだった。
二人の騎士がお辞儀をして拍手されている。
そんな中、一人の生徒が前に出て言った。
「なあ、それで終わり? せっかく高い金で雇ってるんだから、アンドリューの本気を見せろよ」
雇用主の子息らしいその生徒は、さらに続ける。
「そんな魔力無し相手なら、すぐに片付けられるだろ?」
「タウンゼント君、授業中ですよ、やめなさい」
「ご子息様、おっしゃる通り私は魔力を持っておりませんので、私の戦い方では魔法の授業のお役に立てないかと存じます」
教師とルディ本人の説得にも応じず、生徒は苛立ったようにルディに告げた。
「なあ、何で魔力のないお前が公爵家の騎士になれるわけ? ご令嬢に土下座して頼み込んで同情でもかったの? それとも、公爵家の護衛騎士のレベルが低いのか?」




