3-37 ルディ1
翌月にはルディが邸の警備隊の一員として正式に採用された。
「お嬢様、若様。本日からよろしくお願いします!」
朝はもう吐く息が白くなっている。カリス公爵家の制服を着たルディは馬車のドアを開けてくれた。“警備の仕事以外でも何でもやります”と本人が希望したので、そのまま馬車の御者も勤めている。
お兄様の側に控えていたレオ(27歳)が、ルディ(19歳)の頭をぐりぐり撫でた。
「おー来たな新人。これからよろしく‥‥まあ、姫のお気に入りナイトNo. 1の座は渡さないけどな!」
「レオさん、下剋上ってご存知ですか?」
「俺からまぐれで一本取れたこと、まだ覚えてんのか‥‥よし、今度の休みは学園の訓練場でリベンジだな」
「また負けるなよ、レオ?」
メイジーの言葉に、なんだとー? とレオは怒っている。
三人とも、仲良くできそうね‥‥私は笑顔で頷いた。
ルディは魔力を持っていないので、地元の騎士学校を卒業して騎士になった。そのため通えなかった王都の魔法学園に憧れを抱いていたそうで、いつも楽しそうに馬車を走らせている。
この新邸に来るのが遅れたのは、赴任先の辺境伯領で王宮騎士団への受験資格が発生するのを待っていたからだ。
本人はそれを待たずに王都へ来たがったのだけれど、ほんの数ヶ月の差だったので、周りの勧めを受けルディも納得してのものだった。
お兄様はホームルームが終わったら王宮に出仕してしまうのでレオも居らず、お昼休みには残ったメイジーとルディの二人で迎えに来てくれるようになった。
二人の制服はよく似ていても、所属先が違っており、メイジーはカリス領私設騎士団から出向している一方、ルディは国営騎士団を退職して現在はカリス公爵家に雇用されているので、メイジーのケープにはカリス家の紋章と“Private Knights of the Charis Territory”の刺繍、ルディのものには“Knights of the Duke of Charis”の刺繍が入っている。
爽やかで人当たりの良い彼は、カミラ様やルイス様の受けも良かった。他人を否定せず、どんな話も興味を持って聞く姿勢も好まれたようだ。最初は、
「え、ペンタクルス領の男爵でファウラー家?‥‥知らないなぁ。そんな無名の家門出身で、よくディア姉様と契りを結べたね?」
と仰っていたルイス殿下も、日が経つにつれ
「おはよう、ルディ。ねえ、今日のファッションのポイントは何だと思う?」
と気さくに問いかけるまでになっていた。ルイス殿下よりも人見知りをするカミラ様も、
「今度、リーディアに付いて観劇に来るといいわ。ボックス席だから、一人増えても変わらないし」
とお声がけして下さっていた。
そうしてルディは放課後邸に戻ると、給仕をしてくれながら、今日は護衛騎士のケイ・ロス様と手合わせをしたけどめっちゃ強くてワクワクした等いつも機嫌良くしているので、一部の騎士や生徒から軽視されているのに気付くのが遅れてしまった。




