3-35 引越し3
翌朝、私はお兄様の腕の中で目覚めた。
「おはよう、リーディ」
微笑みかけられ、顔を覗き込まれる。
「身体はどう? 辛くない?」
少し気怠いけれど、辛い程ではないわ。パートナーの魔力が自分の中に入ると言う事が、ようやく分かった気がする。魔法の訓練とは比較にならないくらいだった。
赤くなった顔をお兄様の胸に伏せる。
「大丈夫よ」
お兄様が優しかったからと呟いたのは、声が掠れて聞こえてないだろう。咳払いをしていたら、温かくて大きな手が頭を撫でてくれた。
「治癒魔法も使えるようになっておけば良かったな‥‥授業に空きがあれば入れて貰おうかな」
「お兄様は勉強熱心ね?」
「うん、君に関することはね‥‥今日は僕も休みだから、一緒に街へ行こうか。花の苗を見てもいいよ」
「ほんと?」
ぱっと顔を上げると、お兄様がにこっと笑った。
「うん、昨日ジョンに聞いたんだ。品揃えのいい種苗店が街にあるらしいから、まずはそこに行って、後は食べ物でも装飾品でも、君の好きな店に寄ろう」
デートだわ!‥‥と言う喜びからお兄様の背中に腕を回してぎゅっとしてしまったのだけれど、自分がまだ何も身に付けていない事に気付いてすぐ手を離した。
コンコンとノックの音と共にアルマの声がする。
「おはようございます。入ってもよろしいでしょうか?」
お兄様がガウンに腕を通しながらベッドを出てドアへ向かう。そしてアルマに指示をして戻って来た。
「もっと後で朝食を運ぶように頼んだから、まずはお風呂を済ませようか」
そう言って昨日のナイトドレスを急いで身に付けていた私を抱き上げる。そのまま隣の浴室へ移動して、化粧台の前の椅子に下ろされた。
お兄様は手際良く空のバスタブに魔法で水を張り、温度調整も済ませたようだ。
「僕は寮生活だったし、こちらに来てからは身の回りの世話もなるべく自分でするようになったんだ」
私の視線を受けてそう教えてくれた。そして入浴剤を溶かし、用意されていた花弁も浮かべる。
「これでいいかな。君はまだ疲れてると思うから僕が洗うね」
「いえ、自分で‥‥」
自分ひとりで出来るから断ろうと思ったけれど、お兄様が悲しそうな顔で言った。
「初めての日ぐらい、僕が奥さんをお世話したいな‥‥ダメかな?」
大好きな人にこんなことを言われて断れる筈もなく、私は大人しくなすがままになった。入浴剤でお湯が半透明になっていて良かったわ。
泡立てたスポンジで私の体を丁寧に洗い、髪も優しくすすいでくれるお兄様は楽しそうだった。
「君の身体に触れられるのが嬉しくて。だってこの綺麗な髪一本から爪先まで僕のものなんだって実感できるから」
うん、ちょっと愛が重い気がするけれど、何となく分かってたから大丈夫。体をリネンで簡単に拭いた後、魔法で水分を飛ばしてくれる。
バスローブは私のお気に入りのお花の柄が用意してあった。それを着せて、隣の部屋に抱き上げて運び、ソファーに下ろされた。
そして自分の沐浴も手早く終えて戻って来る。
着替えはあらかじめ用意してあり、私の着替えはお兄様が手伝ってくれた。
ビスチェの紐を絞める時は、こんなに絞めて大丈夫? とか、胸がかなり潰れてるけど大丈夫? とか色々心配してくれた。
私もお兄様の着替えを見るのは子供の頃以来で、シャツを羽織ってボタンをとめている動作だけで格好いいってどう言う事だろうと思ったりした。




