3-34 引越し2
多分大丈夫だと思いますが、通勤、通学途中の方は周りにご注意ください
やがてノックの音が響き、お兄様がドアを開けて入って来られた。
既にガウン姿で、髪が少し濡れているようだ。
「僕の書斎にも浴室が併設してあったから、そちらで済ませて来たよ」
王都に来てからは寝衣でもいつも服をきちんと着ているお兄様しか知らなかったから、胸元を見るのは初めてで、細身に見えても毎日鍛えているものねと納得するくらいの胸板だった。直視できない。
「リーディア」
横に座ったお兄様に声をかけられ、肩が震えた。
「はっ、はい」
その様子を見て、彼は可笑しそうにくすくす笑った。
「今日が初夜だって気付いてなかったでしょ?‥‥いつもと様子が全く同じだったから、そうだろうなって思ってた」
「ごめんなさい‥‥」
おいで、と言われてお兄様の膝の上に座る。
「僕は君と二人で住めるだけで幸せだよ。だけど欲を言えば、もっと仲良くなりたいかな」
お兄様に恥をかかせてはいけないわ。それに私も緊張はしているけれど、嫌ではない。
立場上、子孫は残さないといけないし、その相手がお兄様と言うのは喜ぶべき事だわ。
未経験だから不安はあるけれど、試練でドラゴンの眉間に短剣を突き立てた恐怖を思えば、どうってことない気がする。しかもお兄様とだもの、悪い方に行くはずがないわ。
覚悟を決め、楽しそうにこちらを眺めている彼に向き直った。
「お兄様、」
「うん、考えは纏まった?」
お兄様は少し笑いながら尋ねる。
「私、今度こそ心の準備はできております‥‥!」
「ふふ、では運ぶよ?」
彼は私を抱き上げてベッドの上におろした。お花の良い香りがする。
そのまま顔の両脇に手をついて見つめられると、もう逃げ場がなくて心臓がうるさい。
でも部屋が明るいのが気になるわ‥‥と思ってそちらを見ていると、ランプの明度が極端に落ちた。
「他には何かある? 離してはあげないけど」
色んな青を閉じ込めた瞳が熱を持っているようだった。
「いえ‥‥お兄様にお任せします」
「緊張してるみたいだけど、君はもう僕の魔力に慣れている筈だよ」
唇が重なり、口付けが深くなると、大好きな人と触れ合っている満足感と精霊王の血筋の魔力が流れ込む多幸感に包まれる。
体を起こした彼は、息を整えている私の頬を撫でた。襟元が少し乱れていて、そこから覗く胸元から首にかけてがとても綺麗だった。
「僕も初めてだから制御できるか自信ないけど、なるべく君の身体の負担にならないようにするから」
そう告げた後、再び唇が重なった。
「愛してるよ、リーディア‥‥ずっとそばに居て」
お兄様に触れられると、安心と、ドキドキと、幸せで身体が浮くような心地よさと‥‥切なさを含んだ快感が私を襲う。
彼は私の名前を呼ぶ間にも“可愛い”、“愛してる”と何度も言ってくれた。
そうして、私はようやくディラン・カリスとひとつになった。




