3-32 精霊王の使者
「‥‥リーディア!」
泣きそうなお兄様のご尊顔が視界を占める。
私は彼に抱きかかえられており、視線を横に動かすと、もう泣いているカミラ様や心配そうにしているルイス様が見えた。
ああ、戻って来られたのね‥‥
理解すると疲労感と眠気が襲い、目を閉じる。
「ご安心を。眠っておられるだけですよ」
この声は使者様?‥‥
確認する前に意識が飛んだ。
私が眠っている間に何が起きたかと言うと、大きな変化としては、まず精霊王の試練を踏破した事、そして試練については絶対に口外せず、文献にも残さないよう使者様から念を押された事、これから使者様は乙女の側で過ごすようになる事、後は別邸が完成したので、準備ができたら引っ越す旨が伝えられた。
その報告をベッドの上でお兄様から聞いていた私は、当たり前のように窓際の椅子に腰掛けている使者様に視線を移した。
「おや、わたくしの乙女。何か尋ねたい事がありそうですね?」
「ええ、沢山」
「良いでしょう。何なりと」
使者様は立ち上がり、ゆっくりと歩み寄ってベッド脇の椅子へ腰を下ろした。視線を合わせるように少し私の方へ身を乗り出す。
「‥‥試練では、お兄様も私と同じ状況だったのでしょうか?」
「ええ、そうですよ。精霊の血筋が保たれている等は分かっておりましたので、意識体だけを別の空間に飛ばし、最初は二人の絆と精霊力の使い方を見せていただき、次に一人の状況を作り、各々の覚悟の程を確認させていただきました」
ちなみに、お兄様はドラゴンを瞬殺していたらしい。その時間差が現実にも反映されて、私の意識回復が遅れたそうだ。
室内にいるのがお兄様の他にレオとメイジーであるのを確認してから次の質問をする。
「私が幼い頃に見た不思議な夢は、試練と関係ありますか?」
「ええ。記録を一切残さない代わりに、乙女役になる可能性のある少女に、予知夢を見せるケースはございます。それを役立てるかどうかは、ご本人の意思にお任せしておりますが」
そうだったのね‥‥と言うことは、その夢を見た時点から試練が始まっていた可能性もあるわ。私と主人公のどちらともが各王子のルートエンドに辿り着けていなかったらと思うと怖いけれど、とりあえず、私の役目はやっと終わったのね‥‥息を吐く。
表情に出ていたのか、使者様は頷いて柔らかく微笑んだ。
「わたくしはこれから乙女の側で束の間の休息をいただきます。何もせず、ただ何が起こるかを見届けるだけです。我が乙女、よろしくお願いしますね」
金の瞳が優しく輝いていた。
ここまでお付き合い頂きありがとうございます。
次回からは、夕方6時台に一話ずつの更新に戻ります。




