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カリス公爵令嬢は幸せになりたい  作者: 成海さえ
第一部 第三章 魔法学園一年生(14〜15歳)
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3-31 試練3

 何が起きたか理解できなかった。


 私は一人で立っており、砂浜にはお兄様が倒れている。


「お兄様!?」

 駆け寄って触れても、彼は意識を失っており動かない。浅く息はしている。

 その間にもドラゴンの炎が私達を襲い、あらかじめ張っていた防御魔法が発動して大量の炎が目の前で左右に流れていった。


「おやおや、一人になってしまいましたね、乙女」


 いつの間にか横に使者様が現れて蒼白になっている私の顔を覗き込んだ。

「これからどうします?」


 ゲームでは、二人でドラゴンを倒して終わりだった。この状況は想定外だ。

 緊張で冷え切った身体に、震えも止まらない。

 その間にもドラゴンは咆哮を始め、私はギリギリでそれを阻止する。


「‥‥ドラゴンに、弱点でもあれば良いのですがねぇ」

 使者様の呟きに、ハッと思い出した。そうだ、私は何度も経験している。このドラゴンには弱点がある。


◇◇◇


『何で最後に物理攻撃なの‥‥演出の関係?』

 “綾”の声が脳裏に浮かぶ。


 ドラゴンに一定以上のダメージを与えると、同行している王子が勝手に魔力を込めた剣でとどめを刺して戦闘は終了していた。


 そうだ‥‥それを、今、私がしなければ。


◇◇◇


 見上げると、遥か上方にドラゴンの頭があった。まずは動きを止めたい。でも、最後に備えて魔力はなるべく温存しておきたい。どうすればいい?

 視線を彷徨わせると、鎖帷子の刺繍が目に入った。迷いながら震える手で短剣に触れると、辺境伯領での訓練を思い出す。


『お嬢様、あなたが戦わなくてはならない場面とは、フェアバンクス卿も若様も誰も側にいない状況です』


 師匠のルディの言葉が蘇る。


『まずは、“私はできる”と自分に言い聞かせましょう。そして最後まで諦めることなく最善策を考えるのです』


 震える息を吐き切り、大きく息を吸った。


「私はできる」


 そう呟いて、鎖帷子に施してある赤いお花の刺繍に手を添えた。微かに熱を持っている。辺境伯のお祖母様に教えて頂いた呪文を唱えた。


「親愛なる赤き隣人、サラマンダーよ‥‥エリアナ・カリスの名に於いて、その愛する者を助けよ!‥‥捕縛!」


 刺繍の部分が熱を放ち、赤い光を纏いながらするすると解ける。それは大きく広がりながらドラゴンの四肢に絡みつき、一気に燃え上がった。動きが止まる。


 短剣を抜きつつ風魔法を使いジャンプする。空間に土魔法で足場を作り、それを蹴って高く、高く。狙いは一つ、ドラゴンの眉間にある水晶のような石だ。


 短剣を逆手に持ちかえ、滑らないように氷魔法で手のひらごと固定して左手も添えた。

 大きく振りかぶり、ありったけの魔力を込めて眉間に突き刺した。


 次の瞬間、世界が真っ白に染まった。

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