3-30 試練2
「ようこそ夢とうつつの境界へ!精霊王の子と乙女よ!試練を踏破してみせよ!」
真っ白な砂浜がどこまでも続き、透明度の高い青い海が波を寄せる。いきなりの場面転換に、声が出ない。
「リーディア」
砂浜に、お兄様が立っていた。膝をついている私に手を差し伸べる。その手を取り、立ち上がった。
周りを見渡しても海と砂浜と青い空だけで、他には何もない世界だった。
手を繋いだままのお兄様を振り返ると、その背後に、急に人影が現れた。
「こんにちは」
神官姿の男性が話しかける。
青く長い髪に瞳は金色だ。お兄様と私は片膝をついて彼にお辞儀をする。
「初めまして、カリス公爵家子息のディラン・カリス及び妻のリーディアでございます。精霊王の試練を受けに参じました」
「ええ、よく存じております」
男性はにこりと笑った。
「わたくしは水の精霊王の使者でございます。さっそくですが、精霊力の程を拝見したいので、霊獣と戦っていただきましょうか」
どこまでも続く砂浜に、突然大きな黒いドラゴンが現れた。魔法陣は浮かび上がっていない。
ゲームの画面で見るのとは違い、実際に対峙するドラゴンは命の危険を覚える程の威圧感があり、体がすくみそうになる。
「承知いたしました」
お兄様は私の手を引いて、共に立ち上がる。目が合った。その宝石のような瞳を見つめて頷く。
練習通り、すぐに防御魔法を張った。
それを合図にお兄様はドラゴンへ向き合い、魔道具へ手をかざす。
「魔力解放」
魔法石が輝いて発動し、次いで四つの光がドラゴンへ飛んだ。攻撃魔法はどれも通じるようだ。
それを確認してから、私が状態異常の魔法を重ね、同時にお兄様が水の攻撃魔法を開始する。
まずは翼から。
飛翔系の敵は翼や羽を破壊して動きを封じたい。魔道具で力を増した水の刃が次々とドラゴンを襲う。反撃の炎や突風は、私の防御魔法で受け流す。
ドラゴンが傷つき暴れるたびに地響きが起こった。
「リーディア」
敵から目を離さずお兄様が足元を指差す。風魔法で少し体を浮かせていた。私もそれに倣う。
彼にはまだまだ余裕がありそうだ。
頼もしい人が側にいるから、怖かったけれど私も何とか冷静でいられる。
戦いは夢に見たものとほぼ同じだった。ドラゴンは強攻撃の前に咆哮をするので、その都度魔法で動きを止めれば有利に戦えた。
そして、翼や手足にダメージを蓄積して、いよいよとどめと言う時に、世界がまた揺れた。




