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カリス公爵令嬢は幸せになりたい  作者: 成海さえ
第一部 第一章 幼少期(12歳まで)
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1-4 添い寝

 お兄様を招き入れた際に、机に置かれた日記帳にも目がとまったようだ。


「リーディ、日記をつける事にしたの?」

 尋ねられ、私は頷いた。

「ええ、文字や文章を書く練習にもなるかなって‥‥」


 本当はこれから先の対策等を思いつくまま綴ろうと思っているのだけれど。


「そっか、うん、良い事だね」

 私と並んでベッドに座り、お兄様は私の頭を撫でた。その手のひらに違和感を感じて、そっと掴んで目の前に持って来る。


「えっ、これはどうなさったの?」

 お兄様の手は所々硬くなってザラザラしていた。


「僕は父上と同じく文官希望だから、魔法はともかく剣術は(たしな)む程度でいいかなと思ってたんだけど‥‥やっぱり大切な人を守る為に、本気で取り組んでみようかなって。魔法は10歳から解禁だから、とりあえず剣術をね」


 少し照れたように笑うお兄様は、相変わらず天使のようだ。


 剣術かぁ‥‥そう言えば、ゲームのラスボスはドラゴンだったわね。どの攻略対象のルートでも、ハピエンはヒロインとヒーローの二人で倒しに行くのだけれど、その時のお兄様、強かったしいっぱい(かば)ってくれて、格好良かったなぁ‥‥でもゲーム通りお兄様もヒロインを好きになっちゃうのかしら?


 あっ、胸が痛くなって来たわ。

 失恋の痛みのようなチクチクを深呼吸で落ち着かせていると、お兄様が心配そうにこちらを覗き込んだ。


「リーディ、どうしたの?‥‥もう寝た方がいいかな」

 そうしようかしら。私は頷き、持ったままだったお兄様の手を自分の方に引き寄せて言った。


「お兄様、今日は泊まって行ってね?」

「いいよ。じゃあ、明かりを消して来るね」

 私は先にベッドへ入り、机に向かうお兄様の後ろ姿を見つめる。


 お父様はお仕事の関係でずっと王都のタウンハウスに詰めており、お母様も普段はあちらで過ごしているので、このカリス領の本邸に住んでいるのはお兄様と私だけだ。


 もちろん家令や執事長はじめ使用人は沢山いるけれど、公爵家の血筋は兄妹二人きりだし、まだ幼いので、こうして兄が妹の部屋にお泊まりしても特に何も言われない。


「剣術かぁ‥‥私もお兄様の為に何かできる事はあるかしら?」

 そう呟いていると、隣に入って来たお兄様がこちらを向いて言った。


「僕はリーディが癒しだから、なるべく時間を作って会うつもりだし、一緒にその時間を楽しんでくれたら嬉しいな」

「もちろん私もそうするけれど、他には何かある?」


 外見とか、内面とか、行動とか何かあれば‥‥もちろん、あの湖の事故の件では、絶対にお兄様を責めないようにするわ。


「うーん、特には。リーディは今のままで十分だよ」


 出たわこの言葉。異世界の女子高生だった“綾”の記憶のかけらがあるから分かる。これは“今のまま何も努力しなくていい”と言う意味ではなくて“少なくとも現状維持”と言うことなのよ。


 乙女ゲームの中の悪女リーディアも、多分これと同じ言葉をお兄様からかけられていたのだわ。7歳の少女時代に優しくこんな風に言われたら、勘違いしてワガママに育ってしまうわよねぇ‥‥


「お兄様って罪作りだわ」

 頬を膨らませて言うと、こちらを向いていた彼が首を傾げた。

「あれ、怒ってるの? どうしてだろう」


 暗闇の中で困った顔をするお兄様はやっぱり天使のようだ。さらさらの銀髪に瞳は水色から紺色のグラデーションになっており、しかも見る角度によっても色んな青が内包されている。この瞳があるので“精霊に愛された”公爵子息と呼ばれているのだ。


 お兄様の手が伸びて両頬を包まれる。

「機嫌を直して、リーディ」


 そう言えば、先程「二人の時間を楽しんで」ってお願いされたばかりだわ。私も大人にならなければ。7歳だけどレディだもの。


「怒ってなどいないわ。お兄様は私に甘いのねと思っただけです」

 訂正すると、彼の顔が嬉しそうな優しい笑顔になった。


「僕はリーディが大好きだから‥‥甘くなるのは許してほしいな」


 そんな事を言われたら、私の頬が熱くなるのも仕方ないと思う。この暗闇だから顔色までは分からないけれど、頬の熱は確実に伝わっているわね。


「おやすみ、リーディ」


 そのまま額にキスをされて、私は目を閉じた。

 今はこの狭い世界で私を可愛がってくださるお兄様も、ゲームの主人公に出会えば心を奪われてしまうのかもしれない。


 実際、ゲーム内で主人公にかける甘い台詞や行動を何度も体感しているので、そのような未来を想像すると胸が痛い。


 ダメダメ、今は寝よう。

 そして、味方をいっぱい作って未来に備えよう。


「お兄様、手を繋いでもいい?」

「うん、もちろん」

 お兄様のざらざらした温かい手に包まれて眠りについた。

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