3-29 試練1
夜空に頼りなげな弓型の月が浮かぶ頃、私はお兄様と共に水の中央精霊神殿に向かった。
夜更けと言うこともあり人の気配はなく、入り口には迎えの神官一人と、フードを深く被った人影が四つあった。
「リーディア‥‥!」
そのうちの小柄な一つが駆けてきた。カミラ様だった。
「私も一緒に行けたらいいのに、待つだけなんて!」
既に泣きそうになっている。ちなみに、後で判明したのだけれど、王女殿下のローブの下は私とお揃いで作った鎖帷子をお召しになっていたらしい。
「ディア姉様、応援してるからね」
王太子殿下も私の手を握り、エメラルドの瞳を輝かせる。
残りの二人はアレン様とシリル様で、お兄様を挟んで肩を叩いたりして励ましていた。
護衛騎士達は別室で待機、私達は神殿奥の祈りの間へ通された。そこには既に王宮から直接出向いたお父様の姿もあった。
お父様は私達兄妹を抱きしめて言った。
「‥‥務めを果たしなさい」
◇◇◇
水の中央精霊神殿には錚々たる顔ぶれが集っていた。
「準備はよろしいですかな?」
神殿長が尋ねる。立会人として宰相のカリス公爵閣下、総帥のワンズ公爵閣下が揃い、特別に同席を許された王太子殿下、第一王女殿下、ワンズ公爵子息とペンタクルス公爵子息がこちらを見守っている。
お兄様の装備に関しては色々揉めたけれど、本人の「魔法が主なら動きやすい方がいい」との希望で、魔法防御が付与されたカリス領の騎士服に帯剣となっており、代わりに魔力ブースト系の魔法石を嵌め込んだ装飾があちこち輝いている。
私は辺境伯領であつらえた鎖帷子に祖父母から誕生日にプレゼントされた短剣を身に付けている。あと特記しておきたいのは、対魔用にルシファー様が用意して下さった国宝級のペンダントを首から下げていることだ。
何もない空間から魔物を召喚する際は魔法陣が現れるそうなので、それを目安にして魔物と戦闘となった時は、ペンダントの発動呪文を唱える流れとなる。
私はお兄様と目を合わせて頷き、精霊王の立像の前に跪いた。神殿長の声が響く。
「祈りを捧げなさい」
『精霊の森深くにおわします我らの王、その血肉を与えお救い下さった我らの父よ、あなたのお力をもって災いを払え、幸福をもたらし、清き心を導きたまえ』
次の瞬間、地面が歪む感覚が襲い、床に手を付いて体勢を立て直した時には景色が変わっていた。
**補足**
リーディアが身に付けているくさりかたびらは、中太の毛糸で編んだノースリーブのミニワンピース、もしくはチュニックのようなイメージです。




