3-26 神託1
9月下旬、私はお兄様と共に水の中央精霊神殿に呼び出された。
「これから話すことは、他言無用でお願いします」
神殿長の横には大神官とお父様が座っている。いつも優しげな表情なのに、今は困惑の色が浮かんでいた。神殿長は続ける。
「昨日、朝の礼拝を行っていた大神官に神託が下されたのです
“次の新月が来るまでに、王の血を引く青年とその乙女は、試練を受けなければならない。
祈りを捧げよ!
これを違えれば、王の力は潰えるだろう”」
私はお兄様の手を握った。
お父様が口を開く。
「昨日から各神殿と王家に残っている文献を探しているのだが、過去にそのような神託が下された記録は見つかっていない。まだ真偽は分からないが、恐らく“王の血を引く青年”とは王家の血筋ではなく、精霊王の血を引く人物‥‥そして神託が下ったのがこの水の精霊神殿だったため、該当者はディランの可能性が高いだろうと言う見解だ。そして乙女はリーディアだろうと」
魔法があるこの世界では、精霊や神様も存在する。毎年、新年には神託が下る事もあり、それ以外にも有事の際は精霊王から御言葉があると言われている。
「僕は別に構いませんが、リーディアを巻き込まないようにできませんか?」
お兄様が凛として告げた。
「考えてはみるが、難しいだろうな」
お父様は厳しい表情でそう仰った。
次の新月までには2週間しかないけれど、今日の所は状況説明だけにとどまった。
帰りに神殿奥にある祈りの間で水の精霊王の立像を見せて貰うと、ぼんやりと光っていた。
これは原初から存在すると言われる像で、普段は一般公開されていない。神殿入り口に設けられている礼拝堂の御神体は、これを模したものだ。
前に一般公開された時は普通の精霊像だったのに‥‥溜息が出る。
これは主人公のリリアン・ドイルではなく私とお兄様がエンディングに向かって歩いていると言う事なのだろうか?
「近くに寄ってみられませんか?」
大神官が仰るので、お兄様と共に水の精霊王の前に立つ。すると、ぼんやり光っていたものが輝きを放ち出した。
「おお、やはり‥‥!」
大神官が感嘆の声を上げる。
「我が水の精霊神殿から試練の挑戦者が選出されるとは‥‥」
神殿長も感無量の思いらしい。お兄様が、私の手をぎゅっと握った。隣を窺うと、厳しい表情で立像を見上げていた。




