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カリス公爵令嬢は幸せになりたい  作者: 成海さえ
第一部 第三章 魔法学園一年生(14〜15歳)
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3-21 悪魔の深淵2

 レオが開けてくれた扉の向こうには、隊服を纏った凛々しい男性が立っていた。背が高く、顔立ちは繊細で整っており、品があるけど厳しそうで近寄りがたい感じがする。


「カリス小公爵婦人、お待ちしておりました」

 フェアバンクス伯爵は私の前で片膝を付いて右手を取ると、手の甲に口付けた。


「ご挨拶が遅れまして申し訳ございません。“悪魔の深淵”対策連合部隊指揮官のレナルド・フェアバンクスです」


 後ろに流した銀髪、知的な額、整った眉に下から見上げる瞳はダークブルーだ。瞳の色はレオに似てるのね。

 見惚れそうになったけれど我に返り、空いた方の手でスカートをつまんでご挨拶する。


「初めまして、リーディア・カリスです。伯爵のご令息とご息女にはいつもお世話になっております」

「いえ、愚息と娘がご迷惑をおかけしていないか心配していた所です」


 ソファーに掛けるよう促されたので、腰を下ろすと伯爵も向かいに座った。

 肩幅が広くて胸板も厚い。お歳は40前後だそうだけれど、ずっと若く見える。

 もう本当、メイジーとレオのお父様なのねと納得の外見だわ。吟遊詩人も競って物語を奏でる筈だ。

 色々納得していると、お茶の準備と共に、美味しそうなクッキーも並んでいた。


「宜しければどうぞ、ここには若いお嬢さんの好むようなものが無くて申し訳ないが」


 謙遜されているけれど、この香りは。


「私の好きなハーブティーを用意して下さったのですね、ありがとうございます」


 心遣いが嬉しくて、笑顔でカップに口を付ける。一呼吸置いて伯爵は尋ねた。


「実際にご覧になって“悪魔の深淵”はいかがでしたか?」


 私は見学時の様子を思い出す。そこは大きな地割れが延々と続いており、柵に手をついて底を覗き込んでも真っ暗で不気味な感じしかしなかった。

 対岸にはエストリアの兵士が警備をしていて、恒例になっている学生の見学に気付いて手を振ってくれたりしたけれど、私はとても応える気分になれなかった。


「‥‥正直に申し上げて、怖かったです。例の事件もありましたし、余計に」


 例の事件とは、もちろん中級クラスの魔物がワンズ辺境伯領を襲ったことだ。

 フェアバンクス伯爵は頷いて応える。


「あの事件を受けて、警備体制も大幅に変わりました。ただ、ワンズ辺境伯領以外の国民の記憶は薄れて来ています。カリス辺境伯領に滞在されたご経験のあるお嬢さんならお分かりかと存じますが、この国を守る為に戦った兵士や騎士がいること、そして今現在も前線で国を守っている者達の存在を忘れないで頂きたいのです」


「ええ、もちろんです」

 私は即答した。だから、私は自分にできること‥‥カリス公爵家に生まれた役割を果たしたいと思う。


「明日の巡回は、私も同行するのでご安心ください。さて、何かご質問等はありますか?」


 本当は戯曲にもなっているフェアバンクス伯爵のロマンスについて伺いたかったのだけれど、この流れで聞くのは躊躇われたので、当たり障りのない言葉を探していたら、後ろに控えているレオの声がした。


「恐れながら伯爵、うちの姫は伯爵と奥方様の馴れ初めをご所望です」


 ああ、と言って伯爵は微笑んだ。恥ずかしくて頬が熱くなる。


「いや、申し訳ない。そう言えば私の妻もロマンス小説が大好きで、よく話していたことを思い出したのです」


 伯爵の目元が優しくなる。奥様にはこんな表情を見せていたのねとドキドキする。このお顔を拝見できただけでも、色んな人にありがとうと言って周りたい。


「妻と出会ったのは私が16、エレナが24の時でした。その控えめな美しさに一目惚れをして、すぐに婚約を申し出たのです」


 そして伯爵が17の歳にレオが産まれ、3年後にメイジーを授かった。二人は深い愛で結ばれており、奥様が亡くなられた後も伯爵は彼女が愛したこの地を一生守る事を誓ったのだそう。

 最後に伯爵は仰った。


「私の父は今でも独身を貫き、私も後妻を娶る気は全くありません‥‥水の精霊の力を受け継いだ一族は愛情深いと言われますが、我が家門はそれに加えて、父方から一人の人を生涯愛する性質を受け継いでいるようです‥‥お嬢さん、私の子供達をよろしくお願いします」



今日もお疲れさまです。調子はいかがですか?

ブクマや⭐︎をポチって下さった方、いいねを下さった方、本当にありがとうございます。

私はイケおじ、愛の重いキャラ大好きです。

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