3-20 悪魔の深淵1
学期末試験はお兄様の協力もあり、水魔法はレベル10、風は9、土と炎は7まで上がった。
メイジーからの報告で、主人公リリアンの魔法レベルは相変わらず全て5のまま進展せずだった。ゲーム内でハーレムエンドを迎える為の魔法レベルがどの属性も最低5以上だったので、まだ諦めてないのねと思う。
それぞれのルートエンドを迎える為には、対象の属性の魔法レベル10以上が要求される。
そうして学期末パーティーも無事に終え、いよいよ夏休みに突入した。
夏休みには、新入生だけで行われる合宿がある。私はこのイベントを心待ちにしていた。
合宿は炎の領地で実施される。そこで“悪魔の深淵”を実際に見学して正しく理解し、魔法の習得に励みましょうと言う主旨だ。
この合宿の何が楽しみかと言えば、ゲームには関係なくて申し訳ないのだけれど、その“悪魔の深淵”で現場の指揮をとっているのが、メイジーとレオのお父様、フェアバンクス伯爵なのだ!
かの伯爵について簡単に説明すると、伯爵のお父様はフェアバンクス男爵、お母様は不明。幼少時より魔力が強く将来を期待されていたが、魔法学園に入学するも“くだらない”との理由で一年で中退、そして国内各地を放浪していた際に、炎の領地で例の事件に遭遇する。
普段は低級魔族しか現れない“悪魔の深淵”を取り囲む森に、力を持った中級クラスの魔物が突如姿を現したのだ。
当時のワンズ辺境伯領騎士団が苦戦する中、あと一歩で近隣の村が襲われると言う時に、それを単身で食い止めたのが当時のフェアバンクス男爵子息だった。
感謝した領主が褒美を問うた際に、城内で見染めた領主の病弱な娘を所望して、8歳年上の姫を娶り国王からも特別に伯爵の地位を賜ったが、妻は二人目の子供を出産した後亡くなってしまう。けれどフェアバンクス伯爵は妻が愛したこの地を生涯守っていこうと誓うのだった。
なぜこんなに詳しいのかと申しますと、二十数年前に起こったこの出来事は吟遊詩人の間でも語り継がれ、私の好きな歌劇団の演目にもなっているからである!!
「‥‥姫ちゃん、なんかすごく気合い入ってるみたいだけど大丈夫?」
後ろからレオの声がする。彼は周囲の勧めで私と共に炎の領地へ赴いていた。
よって私の護衛はレオが担当し、メイジーはカミラ様のお側に控えている。
「ええ、大丈夫よ。ちょっと緊張しちゃって」
フェアバンクス伯爵は社交界にも顔を出さず、今回の合宿の挨拶や見学についての説明も副官の方が勤めていたので、もうお会いできないと思っていた。
けれど、宿泊所となっているフェアバンクス伯爵の邸宅に戻った際に、伯爵の使いの方から声がかかったのだ。
なので、私と護衛のレオは自室ではなく応接室へ向かっている。
カミラ様とシリル様もいらっしゃるのに、私だけ面会できるのは気が引けるけれど、そう言う行為が許されるのが伯爵らしい。アルカナの危険地帯の一つであるここは、特別な場所なのね?




