3-19 観劇2
これは、どうしたものかしら‥‥
豊かな黒髪を三つ編みにして片方に流し、金色の瞳は上品かつ気だるそうにこちらを向いている。
整った顔立ちにスタイルも良し、長い足を組んでいる様は皇族そのものだ。
カミラ様とは10歳の頃にお会いしてからずっとお手紙のやり取りをしたり、従姉妹と言う事もありプライベートでも親しくさせて頂いている。
そんな近くでこの王女殿下と接して来た私から言わせて貰うと、エストリアの皇太子殿下の外見は‥‥‥カミラ様の好みど真ん中だ。
幼馴染でもあるキラキラした我が国の王子達を普段から「子供ね」と一蹴しているし、年齢的にも5歳年上の皇太子殿下は合っているのではないかしら?
「へぇ、かなり男前ですけど、色気がダダ漏れですね」
レオの率直な感想を咳払いで飛ばし、カミラ様に話しかける。
「素敵な方ですね。秋にはこちらにいらっしゃいますし、直接お会いするのが楽しみですね」
「そうね」
カミラ様はようやく手を下ろした。耳が少し赤くなっている。
肖像画をレオ経由でお返しした後に注文したケーキスタンドが運ばれ、アフタヌーンティーのセッティングが終わってテーブルの上が賑やかになった。
「お嬢様、ご希望はございますか?」
給仕のためメイジーがカミラ様に尋ねるけれど、ため息と共に小さな声が聞こえた。
「私はベリーのムースだけでいいわ。残りは皆で分けてちょうだい」
メイジーがこちらを見たので私は頷いた。皇太子殿下がどのような方なのか外見以外はまだよく分からないし、今はそっとしておこう。
お兄様に聞いてみようかしら?
と言うわけで、その夜尋ねてみた。
「エストリアの皇太子殿下については、詳しい情報はないんだ。もちろん“悪魔の深淵”の件もあるからそれなりの交流はしてるけど、皇帝陛下の評判の方が大きいからね」
我がアルカナ王国とエストリア帝国の国境には“悪魔の深淵”と呼ばれる大きな地面の裂け目があり、そこから時折低級魔族が出没している。ワンズ領での事なので、その地方を治める辺境伯とワンズ領私設騎士団、そして国境を挟んでエストリアの帝国騎士団が共同で警備にあたっている。
エストリアの現在の女帝、イブリン・ラブラス・エストリア陛下は我が国にとても友好的であり、皇太子殿下とカミラ様の婚約を強く望んでいらっしゃるそうだ。
「秋にご来訪されるし、1ヶ月程度滞在予定だから、そのうち分かるんじゃないかな。この婚約は個人の意志だけでどうこうできる訳じゃないからね」
そうだけど、でも、せっかく外見が理想的だったから内面も期待したいと思うのは我儘かしら。カミラ様の為にも願わずにいられない。
私が難しい顔をしているのを見て、お兄様が笑って言った。
「ふふ、君は王女殿下と恋物語が大好きだからね」
「そうよ。あと、お兄様も大好きよ」
そう答えたら、膝の上に招かれ、
「僕も、愛してるよ」
と、キスされた。




