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カリス公爵令嬢は幸せになりたい  作者: 成海さえ
第一部 第三章 魔法学園一年生(14〜15歳)
38/172

3-18 観劇1

「はい、これで終わり」

 私の両手を握っていたお兄様が手を離す。


 夕食と入浴が終わった時間帯に、お兄様は訪ねて来るようになった。魔法の訓練をするためだ。

 メイジーはお兄様と入れ違いに帰宅していた。王都内に、カリス領騎士団の宿舎が設けられているので、彼女とレオはそこに宿泊している。


「ありがとう、お兄様」


 私はふうと息をつく。毎回、彼の魔力が身体を巡った後はのぼせた様な気分になる。頬が熱くなっているのを手で押さえていると、お兄様の顔が近づいて唇にキスをした。


「ふふ、可愛い」


 にこにこ嬉しそうにしているので何も言えないけれど、お兄様は二人きりの時は迷わず私の唇に触れるようになった。

 まあ夫婦だから、いいのかも?



◇◇◇



「そうなの、仲良しね」


 商家の娘に変装したカミラ様がメニュー表を閉じた。

 恒例の観劇のあと、今日は話したい事があるからお茶でもしましょうかと街のスイーツ店に入っている。

 お忍びなので、護衛のレオとメイジーも同席を許されていた。


「注文が決まったらオーダーするよ〜」


 レオは私の、メイジーはカミラ様のお世話役も勤めている。変装として全員茶色のウイッグを付けており、髪型もカミラ様はストレートロング、レオはショート、メイジーはゆるふわロングを後ろで一つに結び(そして男装とメガネ)、私はイヤーカフを隠すヘアアレンジにしている。


「パートナーの魔力を自分の身体に流すと、あの時の快感と同じものが得られるらしいわね」

 カミラ様がさらりと仰る。


「え、あの時って‥‥」

「男女が繋がった時は、相手の魔力も流れて来るそうよ」

「えー‥‥」

 私は熱くなった両頬を押さえる。


「だって、それが一番早く上達するって‥‥」

「確かにそうですよ。若に手伝って貰って魔力の経路を確立した方が早い。夫婦なんですから、いいんじゃないですか?」


 レオに何でもない事のように言われて、そうかしらと思う。

 遠くに主人公のリリアンの姿が見えた。学園に入学して以来、週末はここでバイトをしているのだ。


 私達がこのお店に入った時から、お金持ちそうな青年のお客様の横に立ち、ずっと話をしている。たまに周りを見渡しているのは、遭遇する予定の王太子殿下を探しているのだろうけれど、あいにく殿下はゲームと違って学園に通うようになってからは週末も忙しい。


「ねえ、それよりもディア、見て欲しいものがあるの‥!」

 珍しくカミラ様が少々取り乱していらっしゃる。


「ええ、いかがなさいました?」


 カミラ様はメイジーに預けていた荷物から、二つ折りに装丁された肖像画のようなものを取り出して私に差し出した。


「エストリアから、皇太子殿下の肖像画が届いたの」


 少し前から、カミラ様とエストリアの皇太子殿下の婚約話が持ち上がっていると聞いていた。その関係だろう。


「まあ、拝見しても?」

「ええ」


 レオ経由で私が受け取ると、カミラ様が両手で顔を覆った。どう言う意味かしら?

 世界史の教科書にもエストリアの皇帝陛下と皇太子殿下の肖像画が載っていたけれど、小さすぎるのと絵がつぶれてて何となく長身で佇まいが格好良い雰囲気だわ、としか分からなかった。


 装飾された表紙をぱらりと開くと、正装をして一人で椅子に座る皇太子殿下がはっきり描かれていた。

 隣のレオも興味深そうに覗いている。


 これは‥‥!!

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