3-15 授業風景1
私とカミラ様には共通の趣味がある。それは、歌劇を鑑賞する事だ。
ちょうど私とカミラ様が出会った10歳の頃に“綾”の世界で言う宝塚のような女性のみで編成された歌劇が流行っており、お母様達に連れられて一緒に観に行った。
そこでその世界観や女性が演じる男性像に魅了され、数ヶ月に一度は王女殿下とお忍びで王都の劇場へ通う習慣ができた。
そして今なぜそんな思い出に耽っているかと言うと、本日は両殿下が公務のため欠席されているからである。ちなみに、ルイーズ様の方は身体が弱いと言う設定なので、表向きは病欠となっている。
朝のホームルームが終わり、一限目は選択科目の世界史だったので、教室を移動して一人で長椅子にポツンと座っている。
入学してからほぼ1ヶ月経っているので、自由席と言っても誰がどこに座るなどはだいたい決まっている。私は選択科目も両殿下と合わせていたため、いつも一緒に行動していた。
一人って初めてだから、やっぱり寂しいわ。
手持ち無沙汰から教科書をパラパラめくっていると、教室の入り口辺りが騒がしくなった。女生徒が騒いでいるようだ。
何事かしらとその方向を見ようとしたら、すぐ横に一人の男子生徒が立ち止まった。
「隣、いいかな?」
このいつ聞いても素敵な声は!
「‥‥お兄様?」
彼は失礼、と言って私のすぐ隣に腰掛け、説明してくれた。
曰く、自分は既に卒業できる程の単位を取得しているので、学園内では自由に行動していいらしい。事実、講義の先生が入室された後も何も言われなかった。
「えー、前回は隣国のエストリア帝国の歴史について簡単に説明した訳だが、覚えているかな?‥‥エストリアの皇族は我が国と違い、悪魔の血を引くと言われている」
それに、女性の地位も男性とほぼ同等で、現在は女性の皇帝なのよね。
自分の教科書を開きながら隣を見ると、お兄様も同じものを用意していた。私の視線を受け、彼は微笑む。
『シリルが貸してくれたんだ。教科書は一通り準備しているらしい』
シリル・ペンタクルスは土の王子様だ。お世話好きでお話好きなので、ゲームのプレイヤーからはお母さんキャラとして人気があった。
ペンタクルス領は海に面しており、貿易も盛んなので、あの方だけは学園を卒業したら王都に残らずに領地に戻って公爵の補佐をする流れになっている。
優秀な人材を発掘するのが趣味で、ゲーム内でも主人公の魔力レベルが上がると、王子側から話しかけてくれるので、比較的好感度を上げやすいキャラだった。
そして空き時間は校舎内を歩き回っているため、教室にはほとんどいない。
『今日は一日時間を空けているから、リーディと同じ授業に出るよ』
『えっ本当?‥‥嬉しい!』
これってデートじゃないかしら?‥‥ううん、授業は真面目に受けないと。
嬉しさを隠しきれない口元を引き締めながら教科書に視線を戻す。エストリア帝国は、この先も関わりの深い国だから、しっかり聴いておかないと。