3-14 いじめ?
そんなとある日、教室のルイーズ様の引き出しに一通の手紙が入っていた。
「あら、ラブレターかしら?」
ポジティブなかの方は躊躇わず開封する。
「‥‥大事な話があるので、昼休みに裏庭の校舎寄りのこの場所に一人で来てほしい‥‥A.W.だって」
AWのイニシャルと言うと、真っ先に思い出すのが黒髪赤眼の炎の王子、アレン様だ。
「それで、どうするの?」
カミラ様の問いに、ルイーズ様は笑顔で答える。
「もちろん行くわ。せっかくご招待を受けたのだから、楽しませて貰おうかな」
「メイジーを付けましょうか?」
これはルイーズ様を心配してご提案しているのではなく、手紙の主も恐らく学生だろうから、無力な相手側が気になっていたのだけれど、断られてしまった。
昼休みになり、カミラ様と一緒に中庭のガゼボでお茶をしながら待っていると、思ったより早くルイーズ様の姿が見えた。着衣と髪の乱れは全くない。
「うん、大したことなかったわ」
私とカミラ様の間に着席しながら報告する。
それを合図に食堂から派遣された侍女達が昼食の配膳を済ませて去って行く。
「指示された場所に行くと、校舎の上方から汚水が降って来たので風魔法で避けて、実行犯が窓から覗いているのを見つけたからそこまで飛んで、中に入ると後方に主犯も居たので“もうしないでね”って強めにお願いしたら了承して貰えたわ」
カミラ様は息を吐く。
「大した事がなくて良かったけれど、私とリーディアが懇意にしている令嬢に対して、よくそんな事ができるわね?」
「さあ、嫉妬は大きくなると理性を超えるから。同様の事例が続くようなら、ちょっと考えるわ」
姉弟の会話に耳を傾けながら考える。
ゲーム内では主人公がこの類のいじめを受けていて、今回だとちょうどアレン様が通りかかって助けて下さる流れになるはずだった。
それも無かったし、私が夢で見た内容とは、もうかなり違うものになっている。
この世界のリリアン・ドイルも、自分の思うように進まなくて焦っているのではないかしら。ハーレムエンド狙いみたいだったし‥‥
「‥‥ディアお姉様?」
手が止まっている私に気付いてルイーズ様がエメラルドの瞳で覗き込む。
「心配して下さってるの? 私は大丈夫です。ごはんいただきましょう♪」
その言葉に笑顔で頷くと、ルイーズ様も輝くような笑みを見せた。
「ディア姉様、何から召し上がります? 私が食べさせて差し上げましょうか?」
「ルイーズ、やめなさい。カリス卿に海中深く沈められるわよ。こんなに入籍を急ぐなんて、よほど妹君が大事なのねと社交界でも噂になってるのよ」
「やだわカミラお姉様、淑女同士が仲良くしているだけですわ」
うふふと笑ってルイーズ様がサンドイッチを私の口元に差し出した。困った私が苦笑すると、殿下はそのまま手を返して自分でパクリと食べた。
「でも確かに、この人気を見るとそうなるかもね?」
ルイーズ様が顔を後ろに向けたので私もそちらを見れば、廊下を歩いていたであろう男子生徒が、複数足を止めて遠くからこちらを眺めていた。警備兵が立ち止まらないように指示を出している。
ルイーズ様は肩をすくめて体勢を元に戻した。
「まあ、外見の良さもあるけど、精霊王の直系を近くで見る機会ってあんまり無いから、私達に限らず注目の的になるのはしょうがないよね」
気にしないでいきましょ、と王太子殿下は口元を拭いた。




