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カリス公爵令嬢は幸せになりたい  作者: 成海さえ
第一部 第三章 魔法学園一年生(14〜15歳)
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3-13 BDパーティー3

 お父様からは、入籍祝いに新しい邸宅を用意するので、それが調うまでは今まで通りこの邸で過ごして良いし何かあれば相談しなさい、との事だった。


 お父様はお兄様と同じく優しい顔立ちをしている。お仕事で邸を空ける時間が長く、幼少の頃から離れて暮らしていたので、学園に通う為にこちらに引っ越した当初はお会いする度に緊張していたけれど、邸内のお父様の執務室に通された際に、サイドボード上に並べられた私の肖像画の数を見て、何だか安心してしまった。



 パーティーが終わって自分の部屋で一息つき、入浴と軽い夕食を済ませたので、今日はもうメイジーにも退出して貰った。

 寝衣に着替えてソワソワしながら過ごしていたのに、何もないまま夜になった。


「それではお嬢様、失礼いたします。おやすみなさいませ」


 アルマも居なくなり、部屋に一人きりで残された。隅のテーブルに積み上げられたプレゼントの山は明日の仕分けを待っている。

 もう寝てしまおうかしらとベッドへ向かっていると、控えめなノックの音がした。


「はい。どなたですか?」


 扉の向こうにはお兄様が立っていた。昼間の正装とは違い、上質な柔らかい生地の寝衣に着替えている。


「リーディと少し話したくて‥‥入ってもいいかな?」

「ええ、もちろん」


 急に緊張して来たのを隠しつつ、私はお兄様を招き入れた。彼はお礼を言ってソファーに座り、両手を広げる。


「おいで、リーディア」


 もう夫婦なのだから、断る理由はないわ。

 恥をかかせてはいけないものね。意を決してお兄様の膝の上に横向きに座ると、ぎゅっと抱きしめられた。優しい肌の温もりが直に感じられるくらいの密着に、頬が真っ赤になる。


「ああ、やっと入籍まで来たね‥‥長かったけれど、この先も頑張るから‥‥ん?」


 お兄様は身体を離し、首を傾げる。寝衣の上にストールを羽織っている私を見て戸惑いの表情をした後、真剣な顔で口を開いた。


「ねえリーディア、これは変な意味じゃないんだけど‥‥その、胸の大きさが‥‥かなり変わってないかな?」


 私は自分の胸を見下ろした。こちらに来てからは毎日、入浴を済ませるまではずっとビスチェで胸のボリュームを抑えていた。今身につけているのは緩く胸を支える就寝用の下着だから、本来の大きさと丸みが戻っていた。

 そう言えば、お兄様は知らないのね。

 私は簡単に経緯を説明した。



 話を聞き終えた彼は、片手で自分の額を覆い、呟いた。

「‥‥知らなかったのは僕だけか‥‥」

 よく見ると耳が赤くなっている。


「お兄様?」

 心配になって顔を覗いたら、何でもないよと微笑まれた。


「母上の判断は正しかったと思う。実際、学園内でも君と王女殿下の入学を心待ちにしていた男子学生も大勢居るし、そんなに女性らしい成長をしていたのなら、辺境伯領でも君とシュヴァリエの契りを希望する若い騎士が後を絶たなかったと言うのも頷ける」


 お兄様は私の右耳をそっと撫でた。そこには、ルディから貰ったイヤーカフが嵌まっている。


「既に一人増えたしね‥‥辺境伯のお祖父様が君の部屋の隣にメイジーを寝泊まりさせていたのも、恐らくそうだからだよ」


 お祖父様は“リーディアが寂しくないように”と仰っていたけれど、別の理由もあったのね。お兄様の手に自分の手を添える。


「私、自分が思っている以上に周りの人から守られていたのね」


「うん、そうだね」


 麗しい顔が近づいたので目を閉じると、唇に柔らかいものが触れた。頬や額にも優しく続く。


「リーディア、夢の話もそうだし、他に抱えている事はない? もう夫婦なのだから、遠慮なく話してほしいな」


 目を開けると、お兄様の綺麗な瞳が近くにあった。いつ見ても素敵だわ。宝石みたい。


「私の秘密は、残念ながらもうないわ。やりたい事だったら、念のため適正のある水と風魔法をレベル13まで上げたいと思っているくらいよ」


「そっか、分かった。何かあれば、いつでも相談して」

「ええ‥‥ところで、お兄様」

「うん?」

「そろそろお膝から降りてもいい? 緊張しすぎて心臓がもたないわ」

「ふふ、ずっと顔も赤くなったままだよね。可愛い」

「分かってるなら、もういいでしょ? 意地悪ね」


 お兄様の胸に手を置いて身体を離そうとしたけれど、腰をしっかりホールドされていて動けない。


「僕は早くこの距離感に慣れてほしいな」

「いずれはそうしたいけれど‥‥昨日色々あって頭と心が追いついてないの」


 目を伏せたら頭を撫でられた。


「そうみたいだね」


 えっ、何で知ってるの? と上を向くと、お兄様が楽しそうに笑っていた。


「母上から“簡単に説明はしてあるけれど、あの子は初めてだから優しくしてあげなさい”と忠告があったよ」


 ああ、お母様‥‥

 と言う事は、私が今日なぜ挙動不審だったかを、この方はご存知だったと言うことね?

 お兄様の手が私の頬に触れ、髪を耳にかける。


「ベッドに行く?」


 そう尋ねる表情は試しているようでもあり、いつも優しくて穏やかな彼とは違う艶やかさも含んでいた。

 私の恥ずかしさも限界で、瞳が潤むのがわかる。お兄様の顔が近づいたけれど、咄嗟に手で遮ってしまった。


「‥‥そうだね、これは新居に移ってからにしようか」


 お兄様の表情は見えなかった。拘束する手が緩くなったので、ようやく膝の上から脱出して隣に座り直す。

 だって昨日のこのくらいの時間にこの部屋でメイジーに運ばれた事を思い出すと、恥ずかしくて消えてしまいたい。


「ごめんなさい、まだ慣れなくて」

「そんな君も可愛いから、大丈夫だよ」


 少しずつ慣れて行こうね、と言われ、私は頷いた。

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