3-8 新入生2
「それで、なぜこちらに居らっしゃるのですか、王太子殿下?」
ホームルームが終わり、単位制のため次の授業まで時間があるので、カミラ様とルイーズ様と私の三人は、広い中庭のガゼボの一つを借りてティータイムをしていた。
もちろん、近くにはメイジーやカミラ様の侍女も控えている。
ちなみに、カミラ様に護衛騎士が付いていないのは、必要がないからだ。
王族には常に“影”と呼ばれる武力集団の中から複数人が、騎士に変わって警護にあたっているらしい。
「えーっ、だって私もカミラ姉様やディア姉様と一緒にお勉強したかったからだよ」
ぷくっと頬を膨らませた彼は、可愛らしく頬杖をついた。両サイドにリボンを結んだヘアアレンジがこんなに似合う王太子はこの方ぐらいだわ。地毛は金髪なので、この亜麻色の髪はウィッグね。
「陛下にも許可を貰ったもん。いつものごとく条件付きだけど」
「条件とは、どのようなものですか?」
「公務を完璧にこなすこと、二人の側に居たいなら女装すること、王太子だと悟られないこと‥‥まあ、女装はいつもしてるからいいけどね」
ルイーズことルイス殿下はふふっと笑った。
可愛い、綺麗、小悪魔等の賛辞がとても似合う方だ。
側で聞いていたカミラ様が軽く息を吐いた。諦めの境地なのだろう。
ここでこちらの女装が趣味でいらっしゃる王太子殿下(風の王子、ルイス・ソード・アルカナ)について簡単に振り返っておこう。
“綾”の世界での乙女ゲームの中でも同じく女装が趣味だった。
主人公との接点は学園内ではなく、週末にカフェでバイトをしている所に偶然お客様として訪れたのが女装した王太子殿下と言う設定だ。
殿下とは週末に街でしか会えないので、夏休みが終わるまでに好感度と風魔法のレベルを頑張って上げると、2学期からは女装してない素の王太子殿下が主人公のクラスに入学して来るのだ。
ちなみに、主人公は教室で殿下から話しかけられるまで、街で意気投合した美少女と彼が同一人物だと気付かなかった。
王太子殿下は続ける。
「来年度からは普通に新入生として入学するし、お姉様と同じく公務には出ないといけないから、あんまり一緒に居られないけど、考え方によっては王太子の立場を気にしなくていいし、女性同士だから接触しすぎて注意される事もないんだよね!」
エメラルドの瞳をキラキラさせて嬉しそうに笑う。
「よぉーし、学園生活を満喫するぞー!」
あまりにも素直なルイス様に苦笑してしまう。
「リーディア、この子をサポートしようとか気を回さなくて良いわ。何が起きても自業自得だから、好きにさせておきなさい」
カミラ様は優雅に紅茶を飲んでいらっしゃる。私もはいと頷いてカップに手を添えた。何もない事を祈ろう。




