3-7 新入生1
翌朝、朝食を自室で取り迎えに来たメイジーと共に玄関に行くと、馬車の前でお兄様とレオが待っていた。
「おはよう、リーディア。制服も良く似合ってるね」
お兄様は爽やかな笑顔で手を差し出してくれる。当然、同じ馬車に乗って学園に向かうつもりなのだと思うけれど、昨日は結局メイジーから主人公についての報告を受けられなかったので、朝の通学の時間に済ませたいと思っていた。
「どうしたの? 姫ちゃん、乗らないの?」
馬車の扉を開けて待機していたレオが首を傾げる。私は諦めてお兄様の手を取った。
これは、もうこの方にも話してしまおうかしら‥‥勇気がいるけれど、いずれ私の態度にも出てしまうだろうし、この先ずっと黙っている訳にもいかないわよね。
馬車の中で、私は昨夜の件が恥ずかしくてお兄様の顔を直視できないのに、向かいに座った彼は普通に話しかけてくるのでとても困った。
「リーディアのクラスは、王女殿下とシリル(土の王子様)が一緒だね。シリルはお世話好きだから、何か困ったら相談するといいよ。何でも知ってるし」
「ええ、そうするわ」
窓の外を見ようとカーテンを開けたけれど、朝日が眩しかったのでまた閉めた。
「僕は朝のホームルームが終わったら王宮へ行くから、学園に関しては登校時ぐらいしか一緒に居られないかな。ごめんね」
「お兄様‥‥気にしないで」
顔を向けたら目が合ったので、さっと逸らす。
「リーディア‥‥?」
お兄様が隣に移動してきて、両手で私の頬を挟み自分の方へ向けた。
「昨日は僕の胸に飛び込んでくれたのに、今日は違うの?」
そのしょんぼりした姿に、キュンとしてしまう。
「ち、違わないわ。今日も大好きよ、お兄様」
こんな調子だったけれど、何とか夕食後にお時間を貰う約束は取り付けた。
教室まで送ってくれたメイジーと入り口で別れ、名札が置いてある長椅子席に座ると、しばらくしてカミラ様も教室に姿を現した。今日は、後ろに一人女生徒を従えていらっしゃる。
「おはようございます、カミラ様」
席を立ってお辞儀をする。
「おはよう、リーディア‥‥今日は私の遠縁の子を紹介するわ。フィアンティーヌ伯爵令嬢です。訳あって一年だけこの学園に通う事になりました。同じクラスよ。仲良くしてあげてください」
後ろに控えていた亜麻色の髪の女生徒が一歩前に出てお辞儀をする。
「はじめまして、ルイーズ・フィアンティーヌと申します。憧れのカリス公爵令嬢にお会いできて嬉しいです。私の事は、ルイーズとお呼びくださいませ。敬語も必要ございません」
エメラルドのような綺麗な瞳を細めて微笑む。とびきりの美少女だった。
私も笑顔を崩さなかったけれど、内心動揺していた。だってこの方は‥‥
「リーディア、この子の望む通りにしてあげなさい」
カミラ様が溜息と共に告げる。
「かしこまりました。では、これから一年よろしくね、ルイーズ」
「はい、リーディアお姉様」
彼女は上品に微笑む。相変わらず淑女力が高いのはさすがだわ。




