3-6 入学パーティー3
「えーっ、悪役令嬢が二人ともブルー系のドレスってどう言うこと!? 私のハーレムエンドの邪魔しないでよね!」
女生徒の声がした。明らかに主人公のものだった。
カミラ様に挨拶をして出口に向かっていた私は気付かないふりをしたけれど、徐々に息苦しくなり胸に手を当てる。
「リーディア、大丈夫?」
エスコートしてくれているお兄様が階段の手前で私の顔を覗き込んだ。
「頬が冷たいね。春と言っても、まだ夜は寒いから」
自分のマントを外して私の肩にかけてくれる。
「我慢してたんだね。気付かなくてごめん」
伏せていた目線を上げると、綺麗な青い瞳がこちらを見ていた。
「お兄様‥‥心配かけてごめんなさい。少し疲れたみたい」
「うん、今日は朝からイベント続きだったからね。あとは帰るだけだから大丈夫だよ」
安心させるように微笑んで、お兄様は私を抱き上げた。
レオは馬車を誘導するため側を離れ、一人で後ろを歩いていたメイジーは、何かを考えるように眉を寄せていた。
「ほら、寄りかかっていいよ。邸に着いたら起こしてあげるね」
馬車の中でも過保護は続き、お言葉に甘えて身体を預けた。良い香りがする。お兄様の体温がほのかに伝わって暖かい。
「‥‥お兄様」
「ん?」
「私のこと、好き?」
「もちろん」
即答だった。声も素敵。“綾”が聞いたら『フルボイスなんて狡い』って言いそうだわ‥‥
安心した私は、いつの間にか眠ってしまった。
「‥‥ではメイジー、後は頼んだよ」
「お任せ下さい」
「いや〜姫ちゃんは寝てても可愛いですね」
「レオ、私の姫がいつも美しいのは当たり前だ」
「はいはい、俺のレディでもあるけどね」
賑やかな声に目を開けると、私は自室のベッドに横たわっており、側にはお兄様とメイジーとレオが居た。
「リーディア、今日はお疲れさま。僕達はもう行くから、ゆっくり休んで」
「姫ちゃん、これからは毎日一緒だからね。また明日〜」
レオが挨拶をして、後ろに下がった。お兄様が腰を屈めて顔を近付ける。
「おやすみの挨拶をしても?」
「ええ」
そう言えば、カリス領では就寝前にいつもおでこにキスしてくれてたわ。
思い出した私は、自分のおでこに掛かっている前髪をささっと避けて目を閉じる。お兄様が私の顔の横に手をついたのかマットが少し沈み、また良い香りが近くなって唇に柔らかいものが触れた。
「!!」
ぱっと目を開くと、綺麗に微笑んだ水の王子様のご尊顔が遠ざかって行くところだった。
「おやすみ、リーディア。愛してるよ」
そう言い残して部屋を出て行く。
「やだ〜キュンキュンしちゃう!」
上機嫌のレオがその後に続いた。
メイジーも目元を柔らかくしている。
「お嬢様、入浴の準備が整いました‥‥あら?」
入れ違いに続きの部屋から姿を現した侍女のアルマが、真っ赤になったまま動けない私を見て首を傾げた。




