3-1 再会前1
“ようこそ夢とうつつの境界へ! 精霊王の子と乙女よ! 試練を踏破してみせよ!”
「‥‥ん?」
久しぶりに“ゲーム”の夢を見た気がした。
今日は午前中に入学式、お昼にデビュタント、夕方からは入学パーティーが控えている。
昨夜はなかなか寝付けなかったけれど、いつの間にか寝入っていたようだ。
天蓋付きベッドのレースのカーテンを見て、ここ(王都のタウンハウス)に来たのねと再確認する。お母様の趣味で上品な淑女向けのものになっていた。
ドアをノックする音がして、侍女のアルマが朝食を乗せたワゴンを押しながら入室する。
「お嬢様、おはようございます。本日は忙しい日になりますね」
「おはよう、アルマ。今日もよろしくね」
「ええ、お嬢様のお支度は私にお任せください」
窓のカーテンを開けながら、アルマは気合たっぷりに微笑む。
彼女は私が幼い頃からお世話をしてくれており、辺境伯領へは一緒に来なかったけれど、その代わりこのタウンハウスに早めに移動して、流行の髪型やドレスの着付けを勉強してくれていた。
「まずは入学式でございますね。制服も仕上がっておりますよ」
紅茶を飲む私にハンガーに掛かった魔法学園の制服を見せてくれた。
襟元の詰まったミモレ丈のワンピースにケープ、リボンとブーツも揃っている。
ちなみに、ケープには魔法防御の効果が付加してあるので、そこそこのお値段がするらしい。
「午後からはデビュタントですね。お嬢様の純白のドレス姿を見て恋に落ちる殿方が続出でございますね、きっと」
私はふふっと笑ってしまう。アルマは昔から私の味方だから、たまにこう言う台詞が出るのよね。
「お兄様ぐらいじゃないかしら?」
サラダを食べた口元を拭きながら言うと、アルマは空いたお皿を下げながらため息をつく。
「残念ですわ、御坊ちゃまにもご覧になって頂きたかったのに!‥‥よりによって夕方まで試験で不在だなんてっ‥!」
そう、お兄様は本日、国の文官の昇級試験を受ける為、夕方まで王宮の会場に詰めているのだ。
彼は新学期が始まるまでは寮生活だったけれど、この試験を終えたらこの邸に居を移して私と一緒に登下校するそうだ。ちなみに春休みは受験勉強でずっと寮の部屋に篭っていた。
荷物の移動は今日中に終わるので、試験を終え、私のエスコート役として入学パーティーに参加した後はこの邸に住む予定だ。
と言うわけで、王都に来て数日経つけれど、私は未だにお兄様に出会えていないのである。




