2-8 メイジーの秘密
「祖父の話によると、私の父は女性の精霊との間に出来た子だと」
少し長くなりそうなので‥‥とメイジーは私の許可を得てお茶の用意をしてくれた。
「お祖母様とはどこで出会ったのかしら?」
ほのかに甘い香りのカモミールティーを一口飲んで尋ねる。
「祖父は魔力持ちではないただの商家の息子だったのですが、どうしても騎士になる夢を諦められず、二十歳前に半ば家出するように王都を目指したのです」
「無計画‥‥ではないわよね?」
「ええ、それなりの蓄えと独学ですが剣も扱えたと申しておりました」
王都への街道を馬で移動していた際に、日が暮れて来たのでこのカリス領の深い森を早く抜けてしまいたいと焦った結果、道に迷ってしまったらしい。
仕方ないので、覚悟を決めて泉のほとりで野宿のための準備をして、携帯食料で食事を済ませ焚火の炎や星空を眺めていると、いつのまにか眠ってしまっていた。
そして何かの気配を感じてふと目を覚ますと、世にも美しい女性がこちらを覗き込んでいたのだった。
「それがお祖母様だったのね?」
「ええ。祖父の例えはものすごく長かったので簡潔に申し上げますと、絶世の美女だったと」
「そこから恋が始まったの?」
私も恋物語は大好きなので、はしたなくも少し身を乗り出して尋ねたら、メイジーは苦笑した。
「いえ、恋と言うか‥‥祖母は人間に関わる気はなかったようで、すぐにその場を離れようとしたのですが、一目惚れをした祖父がしつこく引き留め、しかも一夜を共にしたと」
「‥‥ちょっと確認だけど、お祖母様も合意の上なのよね?」
「おそらく。魔力持ちであれば、最悪祖父を屠る事も可能ですし。祖父の話では、自分は紳士なので彼女の腕を持つなど身体に触れて強引に引き留めた訳ではなく、容姿端麗な外見と巧みな話術で説得し、そして最後に土下座に至ったそうです」
えっと‥根負けしたか、絆されたか‥なのかしら?
「その後、王都で祖父は騎士にはなれませんでしたが、新たな取引先を開拓し、ついでに男爵位も金銭で購入してそれを土産にカリス領へと戻ったのです」
「お祖母様も一緒に?」
「いえ、祖母は一夜を過ごした後に姿を消したのですが、ちょうど一年後、カリス領に戻った祖父の屋敷の玄関に“あなたの子供です”と書かれた手紙と共に一人の男児と砂金が一袋置いてあったそうです」
「それがメイジーのお父様なのね?」
「ええ。魔力持ちではない祖父の血をひいているのに、父は幼少時からかなりの精霊魔法を使えたそうです。なので、祖母は精霊だったのではと‥‥ちなみに、なぜ祖父の子だと分かったかは、顔が幼い頃の祖父と瓜二つだったのです。髪や目の色は祖母譲りですが」
「なるほど、メイジーのお父様はその絶大な魔力で炎の領地を救った英雄だものねぇ。精霊との子と言われても納得するわ」
メイジーのお父様は水系魔法の使い手だけれど、色々あって炎の領地(ワンズ辺境伯領)に居を構えている。
その辺りの事は、機会があれば書いていきたい。
「まあ、そんな理由でフェアバンクス家の家訓は“いつ如何なる時も、粘り強くあれ”なのですよ」
メイジーのパパは第三章で登場予定です。
以上で第二章は終わりです。読んで下さってありがとうございました。
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