1-1 はじまり
それは晩秋、私が7歳、お兄様が9歳の時だった。
兄妹同士でも婚姻が認められている世界で、水の加護を受けた公爵家の嫡男と妹の私の婚約が成立した日、邸の者達は揃って浮かれていた。
普段は王都に住んでいる両親も、数日前からこの本邸に戻って準備を進めている。
夕方に開催される内輪だけのパーティーまで時間があるからと、お兄様が散歩に誘って下さったので、二人で外へ出た。
「リーディ、どこに行きたい?」
優しいお兄様は、私の意見も聞いてくれる。
「では、二人でボートに乗りたいです」
「いいよ。では、行こうか」
敷地内の歩いて5分程の場所に小さな湖があり、近くと言う事もあって、護衛の騎士一名と共に向かった。
いつもは大人と一緒に乗るのだけれど、今日はお兄様と二人がいいと駄々をこね、あまり沖へは行かないと言う約束で湖岸へ騎士を残して二人でボートへ乗り込んだ。
魔法石の埋め込まれたオール付きのボートは子供の力でも動かせるので、はしゃいだ私がお兄様の静止も聞かずに立ち上がり‥‥
そして転覆した。
◇◇
「“綾”、一晩で水魔法レベル5まで上げたの!?‥‥レベル上げめちゃくちゃ面倒なゲームなのに、さすがだね〜」
綾と呼ばれた私は隣の友人に頷く。
「うん、だって推しのディラン様に褒められたいし」
「もう何周してんの?ほんと水の王子様が好きだよね」
「4周目かな。ディラン様ルートのスチルとボイス全部回収したいもん。でも、今回もやっぱり妹のリーディア・カリスが邪魔して来るんだよね〜」
「ああ、あのあざとい系の悪女?」
「そうそう。主人公がディラン様と良い雰囲気になってたら、急に体調不良になってディラン様を連れてったりさ。何なの?って感じ」
あら? リーディアって私の事だわ。
でも、綾も私‥‥?
私、このゲーム知ってるわ。
んん?‥‥
誰かに手を握られた感じがしたので、そっと目を開けた。
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