2-7 憂鬱2
「なるほど、では、まずその“リリアン・ドイル”と言う名の奇跡の子が存在するかどうか調べてみましょう。もちろん、姫のお心が定まるまで誰にも言いません」
各魔法の成績は入学時から一般公開されているそうなので、調べるのは難しくないらしい。メイジーも学園卒業者だから、その辺りは詳しいのだ。
「後は、入学パーティーで何色のドレスを着ているかですね‥‥さりげなく注意してみます。とりあえず、若様狙いのブルー系でなければ良しとしましょう」
それにしても‥‥ と、メイジーは悲しそうな表情になる。銀色の長い睫毛がアイスブルーの瞳に影を落とす。
「御歳7歳の砌からお一人で悩まれていたとは‥‥さぞ心細かったことでしょう。私がもっと姫のお心に寄り添えていれば‥‥申し訳ございません」
「ううん、私が相談しなかっただけだから。話す勇気が出なかったの。それにね、夢とは違う点も幾つか出ているの。例えば‥‥」
例えば、ゲーム内ではその稀有な瞳の影響から、積極的な女児に囲まれ過ぎて、しかもあざとい妹の存在も重なって軽い女性不信となり、お兄様は主人公に心を開くまでは前髪を長く伸ばして目を隠していた。
けれど、現在の彼はいつも髪を整えており、瞳も普通に出している。
「おそらく、それは若様が姫を信頼している表れでしょう‥‥ともあれ、未来は変えられるようですし、主人公の動向に注意しつつ、姫の望む結果になるよう尽力いたします」
「ありがとう、メイジー。とっても心強いわ」
「お礼など無用です。私は姫の心と身体、全てを守りたいのです。何かご心配なことがあれば、いつでもお申し付けください」
そうして、メイジーはきりりとした顔から少し瞳を和らげる。
「姫が秘密を打ち明けて下さったお返しに、私もひとつ、秘密を申し上げましょう」
「え?」
いきなりの話題転換に驚くと、彼女は悪戯っぽく口角を持ち上げて告げた。
「祖父の話によると、私の祖母は、精霊らしいのです」
ええーーっっ!?
基本的に私達は自分の身体に宿っている魔力を使うため、精霊の力を借りる事例は滅多にない。
お祖母様曰く「精霊とは友達になれる」らしいけれど、はるか昔に精霊達は森の奥深くに移住してしまったので、よほど運が良いとか何かなければ難しいと思う。
ただ、この世界では神や精霊、悪魔が実在する。
「お祖父様は強運の持ち主だったのね?」
そう聞いたら、メイジーは肩をすくめて続きを話し始めた。




